novel(short : nagi)

□babysitter
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ホテルの自分の部屋で女を抱いた。

シャワーを浴び終え、ホテルのガウンを纏い出てきたシンの湿った身体からは、花の香を含んだ石鹸の香りが立ちこめていた。

シンにより何度も昇天させられベッドで果てていた女は、既に起き上がり、一糸まとわぬ姿でシンの前へと立つ。

「…今夜はこれで終わりなの?」

そんな誘う眼は他の男には効くだろうが生憎、俺には通用しないとシンは流した。

「ああ、続きはない」

「そう」

残念ねというゼスチャーまじりで、女は入れ違いでバスルームへと消えていった。

こちらが知りたい情報は、女が鳴かされながら上擦った声で吐いてくれたお陰で、充分過ぎるほど得ていた。

シンの意識は既に他の事へと移っており、遊園地に出掛けた三人組はどうしたであろうかと考えていた。
自分まで付き合う必要はあるまいと突き放したものの、隣の部屋の七緒は無事に戻ってきているのかが気になった。


その時である。部屋のドアがけたたましく叩かれ、外から七緒の必死の声が響いてきた。

ドンドンドンッ…

「シンさんっ、シンさんっ、助けてっ」

ドアを開けた途端、七緒がシンの胸に飛び込んできて、シンを驚かせた。

「何があったっ」

両肩を掴んで引き剥がし、彼女を確認した。

衣服の肩の縫い目が破れ、首に赤く指の痕がついている様子がただ事ではないと知らせている。

「…ど、泥棒がっ…」

「部屋にまだいるのか」

「…いいえ…いま…逃げ…て行きました…」

ダッダッダッと遠ざかる足音が確かに聴こえる。

それでも確認しようと向かおうとしたシンに、七緒がしがみついて離れない。

ゴホゴホッと咳込みながら涙目の七緒は、全身をガクガクと震わせ支えていなければ立っていられぬようである。


七緒は遊園地から戻った時に、部屋に誰かがいたので声を上げそうになった所を襲われ、首を絞められたのだ。

必死に抵抗をし犯人の股間を蹴り上げて、何とか廊下に逃げ出しシンに助けを求めたのであった。シンがドアを開けなければ再び襲おうと忍び寄った犯人は、ドアが開かれたことで慌てて逃げていったと言う。

「…他に何もされてないのかっ」

七緒が頷くのを見て幾分安心はしたものの、首にはくっきりと絞められた痕が痛々しく残り、未だむせて声が掠れる彼女を見て、下手すれば命がなかったかもしれない状況に、シンは背筋に冷や汗が流れるのを感じた。

彼女自身もその恐怖が蘇り、身体の震えも治まるどころか、嗚咽を洩らしながら泣きじゃくっている。

「あら…そんな可愛らしい彼女がいたのね?」

何時の間にかバスルームを出た女が、シンの腕の中に納まる七緒を覗き込んでいた。

シンは何も否定せずに告げた。

「ああ、こういう事情だ。帰ってもらえないか」

身を売る商売の女は、面倒なことに巻き込まれるのを嫌がるものだ。余計な詮索はせずに急いで着替えると、「よかったわ」と一言だけ残し出て行った。





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