novel(short : nagi)

□怪鳥の島
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「きゃっ、トワ君、何しているの!」

海で溺れていたモノは今まで見たこともない『奇妙で巨大なヒナ』であった。

どうやらシリウスの皆が向かった巣に住む怪鳥のヒナであろうと、トワと七緒は推測した。

動物好きなトワは、ヒナと認めるにはあまりに大きなサイズとグロテスクな風貌であることなど、ちっとも気にならないようで、甲斐甲斐しく世話を焼いている。

「七緒さん、見て下さい!このピヨちゃんは、こんな物を美味しそうに食べるんですよ」

「ピ、ピヨちゃん…?」

七緒はいつの間にか名前がついていたことにも驚いたが、倉庫に餌になりそうな物を探しに行くと行ったきり姿を見せないことを心配し探していたのだ。

甲板が賑やかなので来てみたら、なんとヒナが石炭をガシガシと嘴でつついていたので吃驚したのだ。

「それ石炭よ!そんなものを?」

「ええ、野菜も肉も口元に運んでも見向きもしないんですよ」

キッキッキキキ…

「美味しいのかい?よしよし、ピヨちゃんは可愛いな」

美しいとは思えない声を発するヒナは嘴を真っ黒に汚したまま、トワに撫でられるのを気持ち良さそうに喉を鳴らした。

「トワ君には、どんな生き物も懐いちゃうのね。でも、どうして、このヒナ…あ、いえ、ピヨちゃんは海で溺れていたのかしら」

「羽ばたきの練習をしていて失敗したのかもしれませんね」






その頃、その上空には、ナギとハヤテがいた。

「俺達何処まで運ばれちまうんだよー!おいっ、この化け物鳥っ、離せ」

怪鳥に背中のシャツを爪で捕まれ空へ舞い上がったナギとハヤテは海の上空へとやってきた。

「ハヤテッ、剣を抜いて峯で脚を叩け!」

ナギは自らも鎖鎌を抜くと、錘を頭上の鳥の脚目掛けて放った。

途端にナギを掴んでいた爪が引っ込みナギは下へと真っ逆さまになり、ハヤテもそれを見て慌てて剣で脚を叩いた。

うわーっ…

ナギに少し遅れてハヤテも手足をばたつかせながら海へと真っ逆さまに落ちて行った。



バッシャーンと海に大きな波しぶきがたち、甲板にいた二人を驚ろかせた。

そして、浮かび上がってきたナギとハヤテを見つけ、二人は益々、驚くのだった。

「うそっ!ナギッ!ハヤテさんっ!」

七緒は慌てて手摺りに駆け寄り浮き輪を放った。

「二人とも浮き輪に掴まって!引き上げますからっ」

トワが二人に向かい叫んだ。

キッキッキキキ!

ヒナも動揺し騒ぎ始め、七緒は甲板から落ちそうな勢いのヒナを抱きしめた。

「ピヨちゃん、大丈夫よっ、驚いたのね。暴れてまた海に落ちたら大変だから、ね、落ち着いて」

七緒はバタバタと翼をばたつかせる、自分と同じ位の大きさのヒナを必死で抱きしめた。

「ナギ兄、船を見つけたから落ちることにしたんだなっ」

ぷはっと水を吹き出しながらハヤテが叫んだ

「当たり前ぇーだろ、あのまま海の真ん中まで運ばれて落とされちまったら助からねーぞ」

その時である。
突然、海面が陰で覆われ見上げた途端、先ほどナギとハヤテを運んできた怪鳥が船の甲板に舞い降りたのだ。

甲板が重みでグググと傾いたので、ヒナが益々暴れだし、抱えていた七緒は脚で蹴られてしまった。

「…うっ…」

そして七緒の手には負えないまま、傾いた甲板をズズズと滑っていったのだ。

「七緒さんっ」

気づいたトワは七緒を庇うように抱きとめたが、止まった目の前には怪鳥がおり、鋭い眼でこちらを見下ろしていた。

キッキッキッ…

「ピヨちゃん、恐がらなくていいんだよ」

こんな状況下でもトワはヒナを落ち着かせようとした。

そして、不思議なことにトワに撫でられるとヒナは直ぐにおとなしくなったのだ。


怪鳥は暫く睨みつけていたが、やがて視線はトワの腕の中で心地良さげにしているヒナに移ると、鋭さが抜け柔らかな眼に変わった。

クククククゥ…と喉の奥から優しい声が響くと、クククゥ…とそれを真似たような声でヒナも答えた。

「…ピヨちゃんのお母さんなのかい?」

ヒナはもう一度クククと鳴いて頷いた。

トワと七緒がそっと包んでいた手を放すと、親鳥は嘴でそっとヒナに触れた。

「ピヨちゃん…お母さんに会えて良かったね」

先ほど蹴られた衝撃で、微かに腹部に痛みを感じていた七緒だったが、
親子の再会を目の前にし、もう直ぐ自分も親になることが重なる所為か何だか胸が熱くなった。

「七緒…」

船に上がってきたナギが鳥を刺激しないよう背後からそっと近づいた。声を潜めて呼びかけ彼女を引き寄せると、怪鳥から、出来るだけ離れたのだ。

「ナギ…」

「怪我はないか?」

ナギに抱きしめられた途端、七緒はホッとし身体の力が抜けた。





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