novel(short : nagi)
□怪鳥の島
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「船長、親鳥達が戻りはじめたようだよ」
ソウシが緊張を帯びた眼差しで遠くの空を見つめた。
数羽の怪鳥が、真っ先に戻った鳥の警戒行動に気づいたのが、勢いを増し戻ってくるように感じた。
見上げて映る姿は、鳥というよりは、翼竜そのものであり、太古の世界に迷い込んでしまっような錯覚さえ覚える。
「おいっ、ハヤテ、籠とおまえを引き上げるぞ」
リュウガの声に「えっ?」と顔を上げたハヤテは足元がよろけ、眠っていたヒナに触れてしまったのだ。
膜のような瞼がパチリと開きヒナがハヤテを確認した途端、まだ覚束ない体を起こし、伸ばしきる動きも学んでいない手羽をバタバタと動かし暴れた。
キッキッキッキッ…
「うわっ、おい、落ち着けっ!化け物…いや、ヒヨコちゃん、暴れんなって」
ヒナは本能から敵を巣から落とそうと必死にばたつかせた。
ハヤテに付いているロープを嘴で挟み、餌と間違えているのか飲み込もうとしている。
ヒナとはいえ、嘴は鋭く力も強い。ハヤテの腰のロープはあっと言う間にボロボロになり切れてしまった。
頂上では、急下降し襲ってくる親鳥達に悪戦苦闘していた。
シンが一発の銃声を天に向かって放ち威嚇すると、一旦、鳥達は空へと散り、旋回し警戒した。
「まずいな、ハヤテは無事かっ」
下を覗くとハヤテはヒナの嘴に追い立てられ巣から今にも落ちそうであった。
「俺が行く。籠のロープを外したら下へ投げてくれ」
ナギは、命綱をつける間も惜しがり崖を降り始めた。
「いくらナギでも無茶だよ。こんな絶壁」
ソウシは止めようとしたが、リュウガが答えた。
「ロープは必ず投げるから、お前も下で必ず受け取るんだぞ」
お前なら出来るよな?という信頼の眼差しに、ナギはフッと笑い頷いた。
ナギは空の巣に降り立つと、伸びてきたロープを腰に巻きつけ、隣の巣に壁を這い向かった。
「ナギ兄…」
最早、暴れるヒナに押され巣に片手でしがみついていたハヤテの腰を掴んだ。
「俺にしがみつけ!」
二人は空の巣に一先ず非難し、ナギはロープを外し、ハヤテの腰に結び直そうとした、その時である。
一羽の親鳥が急下降し、二人目掛けて襲ってきたのだ。
「うわっ!」
二人は武器を出す隙もなく、鋭い爪を持つ脚に服を引っ掛けられ、再び羽ばたかれてしまったのだ。
「船長っ、二人が捕まって空へっ!」
「何っ!…あいつら、ずるいな…俺が鳥の脚に捕まり飛行する夢を奪いやがって」
「え?ずるいって、こんな時に…」
ソウシがリュウガの言動に呆れている。
既に、数度の銃声の威嚇もあまり効かなくなっていたが、巣から害虫が消えると、他の鳥達は何事もなかったかのように、それぞれの巣に戻って行ったのだ。
「チッ…二人を連れ去ったのは、元々、空だった巣の持ち主か…」
シンが他のヒナのいる巣が落ち着きを取り戻しているのを確認しながら呟いた。
「他の巣にはヒナがいるのに、あそこだけ元々、居なかったのはどうしてなんだろうね」
「ああ、あの一羽だけ他の鳥達と行動が違ったのは、居なくなったヒナを探していたのかもな」
「シンの推理通りだろうな…ま、一先ず安心だな」
「安心?ナギとハヤテが怪鳥にさらわれたというのに」
ソウシはリュウガの発言にまたもや眉を顰めた。
「いや、安心と言ったのは、あのデカい鳥達は人を喰ったりする習性はないようだからな。見ろ!ヒナが無事と分かれば攻撃を止める大人しい生き物じゃねーか。二人も喰われる心配はねーだろ」
「まぁ、あの二人ならどこに落ちても簡単に死にはしないでしょうしね」
シンも皮肉って笑った。
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