novel(short : nagi)
□怪鳥の島
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島の北側に廻った一行は、声を潜め足音を忍ばせた。
リュウガが声をたてずに「行け」という口の形と指で示すと、ハヤテが身を屈めながら崖の先端へと進んだ。
その腰には命綱のロープが巻かれており、ロープの反対側は大きな岩に括られている。
ハヤテは崖からそっと下を見下ろし、それから皆に向かって手でオーケーのサインを送った。
オーケーということは、今は怪鳥が巣にいないということだ。
怪鳥の巣は崖壁の所々にある岩の出っ張りを利用し作られる。木の枝や茎を編み込むように丸く作られたそれは、他の鳥類たちの巣と変わりはないのだが、そのサイズが半端なく大きいのだ。
崖壁にはそんな巣が十個ほど点在していた。
リュウガはひとつ前に寄港した先で、この島の怪鳥に詳しいという男から話を聞くことができた。
丁度今の時期は、ヒナが生まれている時期で、お宝を狙うなら今しかないというのだ。
巣の中にあるお宝とは、実は、怪鳥の卵の殻のことなのである。
青みの帯びた白色のそれは、表面の成分は炭酸カルシウムで出来ており、他の鳥と変わらないものなのだが、割れた殻の内側が純金で出来ているのだ。
ヒナが孵ってから殻の内側の温度が徐々に冷えると、どろりとした液体状になっていた内側が固まり、眩いばかりの金の固まりになっているという。
金の融解温度を考えると怪鳥のヒナは灼熱の温度の中で育つことになり、最早、その時点で通常の生物ではないことが推定できる。
そして何故、金の卵を産むことが出来るのか、怪鳥の餌が島の特有の鉱物であるということ以外、未だ誰も知らない謎なのである。
今は、怪鳥たちが餌を探しに巣を空けている時間帯のようで、見下ろした巣の中にはヒナたちが微睡んだり目覚めて嘴をパクパクさせているものも見えた。
「ヒナとはいえ、やはりデカいな…ひとつの殻でもだいぶ金がとれそうだな」
リュウガは下を覗き込みながら予想以上の卵の大きさに悦んだ。
ヒナの肌には毛は無く薄茶色のなめらかな肌から中の青黒い血管が透けて見えていて、まだ瞳は一枚薄い膜がかかっているようで、その部分は丸く黒く浮き出ている。
「うわっ、何か気持ち悪ぃな」
「何ビビッていやがる。さっさと行け」
シンは、見下ろすばかりでなかなか降りようとしないハヤテに発破をかけた。
「誰がビビッてるって!いま降りるよ」
チッと舌打ちをしながらハヤテは下へと降りだし、他の皆はロープを掴み支えた。
ハヤテが降りたひとつめの巣には、ヒナは居らずぱっくりとふたつに割れた殻だけが残っていた。
「化け物ベビーはいねーや、ラッキーだぜ!」
ハヤテは頭上から降りてきた別のロープに括られた籠を引き寄せた。
卵は直径四十センチもあり、半分に割れた殻の内壁は固まった金で覆われている。
ハヤテはずしりと重いその殻を持ち上げると、籠に乗せて頭上に向かい親指を立て引き上げろと合図を送った。
続いてハヤテは、岩壁の足場を見つけながらロッククライミングのように近くの巣に移った。
この巣には一羽のヒナがスヤスヤと眠っているが、まだ産まれて間もないのか、ふたつに割れた殻の内壁の金は固まったばかりのようで、まだ熱を放っていた。
「熱そうだな、何とか持てっかな」
ハヤテは殻をすくい上げるように持ち上げ、籠に入れた。
キェェェーッ…
突如、奇声が轟き頭上を見上げると、羽を広げ旋回する怪鳥が現れた。
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