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□伸ばした手は、届かない。
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また、だ。
何回目か分からない、伸ばした手は空を切った。


ギュッと唇を噛めば、ピリッと痛みが走る。
それでも、なお、あたしは力いっぱい噛む。



「ナマエ、」


目の前にいるあなたは、微かに笑って背を向ける。
じゃぁな、なんて余計な言葉を付け足しながら、


あなたは去っていく。



追いかけない、いや、追いかけられない。
足が動かなくて、頭が真っ白で、目の前が歪んで、



手を伸ばしても、届かない。



あたしは、闇へと落ちていく。









「…ナマエ!!ナマエ!」


ハッとして、目が覚めた。
ドクドクと心臓が脈打っていて、呼吸も荒れている。



ここは、どこだろう?



「ナマエ、起きろ。」



あたりに視界をめぐらせていて、ふと目に止まった人物。
さっきまで、あたしの背を向けて何処かへ去ろうとしていた人物。



「き、キャプテン…」

「…なんだよ。お前どうした?呼吸が荒い。」



心臓は徐々に落ち着きを取り戻していって、呼吸も正常化していく。
それなのに、さっきの世界と同じで視界は歪む。



「キャ、プテン…」


「ナマエ、何泣いてんだ。」




無意識に手を伸ばした。
さっきは届かなかった手を、伸ばした。



「ナマエ、」



伸ばした手は、器用にキャプテンの指に絡められ、
もう1つの手でそっと抱き起こされる。



「こんな年になって、変な夢でも見たか?ナマエ。」



微かに笑うあなたの笑みがあまりにも優しくて、
絡めた指があまりにも温かくて、



あたしはもう一方の手も伸ばした。




涙で濡れた頬を唇で拭って、
何も掴めなかった手を、温かい手で握って、


小さく震える身体を力強く抱きしめて、



あたしはようやく、夢から覚めた。





「キャプテンっ…!どこにも行かないで、くださいねっ…」

「バーカ、行かねぇよ。」








(でもやっと今、その手に触れた。)







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