バテン・カイトス
□平和な世界なら
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「うっうう…村に帰りたいよぉ……」
「うるさい!静かにしなさいよ!」
数十年前。
実験体としてエイメと連れてこられた何もない広く暗い部屋。
自分はここに来てからずっと隅っこでうずくまって泣いているだけだった。
「…おい、こないだも実験失敗したらしいぜ…」
「なんでも、その子供の死体の処理した奴がその場で急死したらしい……」
扉の向こう側では大人の男の声がよく聞こえたものだ。
<子供の死体>その言葉に恐怖がこみ上げる。
「…ボク、まだ死にたくないよ…」
「…あたしたちは実験っての成功させて、成り上がってやるんだよ…」
ずっと強気なエイメの声も、震えていた気がする。
ある日、エイメが部屋から脱走して戻らない時があった。
「…ボク…うぅ……エイメぇ…怖いよぉ…」
きっと怖い大人に捕まって実験されて死んでしまったんだと思った。
「ねぇ、あなたがフォロン?」
「!!…エイメ?…じゃない…誰?」
そんな時、掛けられた声は明るく柔らかなものだった。
「私、ヒカリだよ。さっき、お姉ちゃんと探検してたら見つかっちゃったの。でも大丈夫よ。だってヒカリが悪いって嘘ついたら怒らなかったもん。おじいちゃん先生。」
そう言って近付いてきたヒカリの身なりは自分達とはまったく違うキレイな服だった。
その出会いがきっかけかのように、部屋は明るい場所に移された。
実験はうまく行った。
訓練は辛かったけれど、それでも頑張れた。
そうだ。
自分はヒカリの事が何よりも大切だったんだ。
彼女はもういない。
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