バテン・カイトス
□平和な世界なら
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「はぁ。ホント、いつ来ても慣れない場所だな。研究室は。」
ヒカリのほぼ生活拠点化している個人所有の研究室。
ここは元々、フォロンとエイメが数十年前に実験体となった研究室を改装した部屋なのだ。
フォロンはソファーへ掛けると治療道具を持って来たヒカリに見やすいよう、装備を外した。
手の甲は火傷などで爛れている。所々は細い傷が目立っているが、そんなボロボロの手を臆することなくヒカリの指はとらえる。
「、ちょっと痛いかも…我慢してね?」
「…やっぱり、アレ…だよね」
アレ とは殺菌力の強い消毒薬のこと。
ヒカリは苦笑いすると、フォロンの傷にそれをスプレーした。
「くっ!!…、…、……はぁ。…その痛みには慣れないな。ヒカリ」
すごく染みる液に苦悶の表情で訴えるが、彼女は少し面白そうに笑うだけだ。
「…ところでさ、さっきの資料なんだけど、あれって何なの?」
その言葉に、声だけでも彼女が辛そうに答える。
「エンドマグナスについて。あと、よくわからないけど、-神の子-っていう存在が生存する確率を調べたの。…それ以上は私の憶測だから、ジャコモに直接判断してもらってからじゃないと言えないの。」
フォロンはヒカリの言葉の通り、それ以上は聞かなかった。
「…あ、そうだヒカリ、良いもの見せてあげるよ。アヌエヌエでちょうど手に入れたんだ。」
マグナスをかざすと、フォロンの手には美しい薄紅色の花が実体化した。
「すごく大きい花…なんて言うの?」
「三十年花さ。」
ヒカリは帝国から一切出たことがない。排気ガスや砂漠の砂で空気の悪い環境下で研究者をしている彼女の身体はあまり丈夫ではないのだ。それを良いことにゲルドブレイムは拘束をしている。
そんなコントロールされている要塞内は花もない。
いつしかフォロンは外に任務があれば植物をヒカリに送っている。
そんな彼女の研究室の一角は植物が青々と命を輝かせていた。
「ありがとう。フォロン。」
ヒカリは三十年花を受け取ると笑顔で礼を伝えた。
「礼はいいさ。そんな大したことじゃないだろ?」
それがいつものやりとりで、ずっと続くとその思いすら忘れた頃。
ミラから帰国したフォロンは、いつもの決まった行動をすることはなかった。
「ふんっあの役立たずな小娘、今頃砂漠で苦しみもがいているだろうな。」
ゲルドブレイムの戦争計画に反対した反逆者は容赦なく罰を受けるはずだった。
しかし、反対派の人々が怖じ気づき責任をヒカリに押し付けたのだ。
挙げ句、ヒカリは散々痛めつけられた後に毒の原液を入れた瓶を共に砂漠の真ん中へ放置されたらしい。
「毒を持たせてやるとは…寛大な御処置です!!きっとあの女はゲルドブレイム様に感謝して毒を飲んだことでしょう。」
幹部の誰かがそう言った。
慣れた醜い笑い声が響く。
「あーあ。サッサとカラス達をぶちのめしたいよ。胡麻擂り連中の笑い、あたしは聞き飽きたよ。ジャコモ」
「まぁそう焦るな。我々には我々の仕事がある。あの娘も最後は俺達の役にたてたんだ。」
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