オルタンシアサーガ
□ぬくもり
2ページ/3ページ
「あの・・・」
「あ?・・・な、なんだ??」
てくてくと沈黙して長い時間歩いている中、ヒカリの第一声にアーロンは挙動不審になる。
何故か慌てふためいているアーロンに小首をかしげながらも、そのままヒカリは感じた疑問をつぶやいた。
「アーロンさんは寒く無いんですか??ものすごく薄着だから最初見た時にビックリしたんです。ラムもやっぱり薄着だし・・・北の方って寒さに凄く慣れてるのかなって・・・」
どちらかというと、オルタンシアの者は重厚な格式のある装備で露出はほとんど無い。
それに比べると、やはり、北国のメンバーはとても薄着なのだ。
「いや、まぁ・・・動き回ってりゃ熱いもんだぜ?? 気持ちの問題じゃねぇの??」
いつものスタイルで特に違和感もないのでなんとも言えないという感じでアーロンは返答を済ませた。
「そうなんですね、納得しました。」
「おう。」
またしばらく歩く二人。
「あ!!」
「お、おう・・・?!」
ヒカリが立ち止まり声を上げる。
「なるほど。基礎体温の問題なのかも?なるほどなるほど。」
「・・・いまいち意味がわからねぇんだが・・・」
ヒカリの突然の頷きに戸惑うアーロン。
「今こうして手を繋いでいてよく分かりました。アーロンさんは温かいんですね。なるほどって思って・・・あっ」
ここまで来て初めてアーロンと手を繋いでいたことに気づくヒカリ。
反射的に手を離そうとしたが、その瞬間アーロンの握る手が僅かに強くなり、ヒカリの手は擦りぬけることなくそのまま繋がる。
思わずアーロンを見上げるヒカリ。
「あ、あの・・・私・・・手・・・」
「べ、別にいいだろ!?あ、いや、無理強いはしねぇけど・・・だっ・・・だってほら!お前寒そうにしてただろ!・・・っ、!(何意味わかんねぇ事言ってんだよ俺!!)」
このまま一緒にいたいと強く思ってしまったのが最後。
北方の人間としては1度熱した情熱はとことん突き進むのが性。
たかが手をつないでるだけで相手が温まるなんて思ってもみないが、他に手を離したくないための嘘が思いつかなかったアーロン。
別にヒカリが悪い訳では無いのにムキになり言うこと言った後にこんどは罪悪感がじわじわと押し寄せた。
堪らず、ヒカリの反応を見ようと視線を移すとバッチリとお互いを見つめる形に。
「アーロンさんって、優しいんですね」
ニッコリと笑うヒカリに赤面したアーロン。
「い、いいから行くぞ!!」
それからしばらく歩いていると、
ばったりとスレヴィに遭遇する二人。
「ん?アーロン、そんな所で何をしているんだ?」
「(げ・・・若様・・・)」
「スレヴィ王子」
スレヴィはヒカリを見てオルタンシア軍のメンバーだと気付く。
「ほぉ・・・。オルタンシアはなかなかいい国なんだな・・・。」
2人をよく観察するスレヴィ。
仲良く手をつないで・・・なるほど。と
口角を上げて納得する。
「お前の趣味も悪くないって事だな。」
大きく笑って見せるスレヴィにキョトンとするヒカリと困ったような焦ったような複雑な顔をするアーロン。
「お前、名は?」
「ヒカリと申します。」
「ではヒカリ、本国に帰還してもアーロンの事を忘れるな。こいつもまた、お前の事を忘れられないだろうからな!」
「ばっ!!若様!!いい加減にしてくれって!!」
「いいだろ!こういうのははっきり言っておいてだな・・・!!」
男2人で騒ぐ声が廊下に響く。
すると、突然ヒカリが片膝をつきはじめる。
その行動に2人は顔を見合わせ心配になり近寄ろうとしたがヒカリの言葉に動きを止めた。
「・・・オルタンシア王国騎士所属、私ヒカリ。ゼムセリア王子スレヴィ様のご命令承ります。」
その場の空気が固まる。
「・・・ほう。ますます、彼国、気に入った。ヒカリ、もういいぞ。アーロン、仲良く手をつないで見送ってやれ」
アーロンはそそくさとヒカリを起こすと2人は広間へと向かっていった。
「(オルタンシアはなかなか真面目なヤツばかりだな)」
ヒカリの振る舞い、先程のマユリスとはまた違った雰囲気を感じたスレヴィだった。