バテン・カイトス
□平和な世界なら
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「フォロン、血が出てるよ」
帝国アルファルド。
フォロンがアヌエヌエから戻り事をジャコモ立ち会いの元、ゲルドブレイムに報告した後の事。
通路でたまたま会った副医療長を務めるヒカリに声をかけられる。
ヒカリとは帝国に初めて来たときからの顔見知りだ。
ヒカリは近寄ってシワ一つないハンカチをフォロンの鎖骨下あたりに添ようとしたが
「…やめてくれよ。こんな掠り傷放って置いたって異常なんか出ないだろ!!」
そう言って、手で払いのけるフォロン。
若干驚いて後退したヒカリの抱えている書類から一枚の報告書がすりおちる。
ふいに目にした文面には、提出先にジャコモの名前と用件の欄に書かれている<人体実験結果>の文字と<神の子計画のマグナス性質>の文字。
それを拾い上げる。
「…<マグナス性質は空の器へ中身が入るような単純な例えになるが分子の結合は──>」
「フォロン!ヒカリ!何をしている!」
「ジャコモ?」
目を通している中、突然かけられたら荒々しい声。
その主、ジャコモはフォロンから書類を取り上げるとヒカリの頬をはじく。
「きゃっ───」
ヒカリは倒れ持っていた他の書類も一斉に散らばった。
「機密書類だと言ったはずだ!万が一、他の人間に知れたらどうするつもりだ!」
「ご、ごめんなさい…。」
打たれた頬を抑え謝るヒカリ。
「ジャコモ、その資料…」
「フォロン、今知りたければ勝手にしてくれても構わんが外部には漏らすな。」
「あ、ああ…わかったよ。」
ジャコモはヒカリを軽蔑した目で見るが、すぐにその場を立ち去った。
「…あはは。…怒られちゃった。」
すぐに片付けるヒカリ。
少し離れたところに行った資料をフォロンが取り、ヒカリに渡す。
「ホラ。もたもたしてないでサッサと片付けろよ。」
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