FF15

□清き願い
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「マテル、おはよう!」


「おはようございます、ヒカリ様」



マテルが先日のように大盛りの食事をトレーに、ソムヌスの部屋へとやってきた。
ヒカリは扉を開けて中へ通してやる。



「・・・ソムヌス様はまだ眠ってらっしゃるのですかい??」



ソムヌスの姿が見えない事に、ベッドを見やると横向きで寝入っているようだ。


起こそうと向かうマテルをヒカリが慌てて止めに入る。



「待って、ソムヌス様が起きてしまうから・・・」



「朝なんだから起こされて当たり前ですよ」



それでもなお前に立ちはだかるヒカリにため息をついて諦める。



「ヒカリ様、男は甘やかしすぎもダメですからね? では後ほど片付けに参りますから、何かあったら言うんですよ?」



「うん!ありがとうマテル」


ヒカリはマテルが廊下の奥まで行くのを見届けると扉を閉めた。



「ソムヌス様、もう戻りましたよ」



そういって、椅子を引きソムヌスが起き上がるのを待つ。
ソムヌスはすぐさま起きると寝癖もそのままにヒカリの傍へと行く。



「何だかいけない事をしている気がするが・・・どうも彼女は苦手でな」



自分を見るその目がいかにも何かの敵のような気がしてならない。



「そうでしたか…。でも彼女、とても元気で力強いですよね。私も彼女の様に強く優しい女性になりたいです」



その言葉につい、クセの強い婦人の体格のいい体型になり「ソムヌス様!!おやすみなさいませ!!」と張り手を喰らう想像をしてしまい酷く落ち込んだソムヌス。



「頼むからそのままでいてくれ…」



彼女を愛しているから体型とか言葉遣いだとかは目をつむれる気がするのだが、やはり、そういう問題でも無いと突っ込まずにはいられない。


その呟きは聞こえなかったようで、本日のノルマへと手を伸ばして頬張るヒカリに心做しか癒される。



「ソムヌス様、今日は何をされるんですか?」



「特にないな。新しい依頼があれば動くような状態にしてあるんだ」



本当はクレインでやる事はもう終えていて、あとはヒカリの体調次第でここを発つだけであった。
あのような事があった後で直ぐに回復しろとは言い難く、領地へ滞在する期間をそれっぽい理由で誤魔化して言う。


ルシスやダスカの事務仕事なら、ちらほらと書面で届く事もしばしばではあったのだが。



「んっくっ!!カッ・・・!?」



「!?どうしたヒカリ!」



ぼうっとそんな事を思っていると、ヒカリが急に喉を抑え身体を動かす。
声にならない声を出して苦しみ出した。



「おい、しっかりしろ!」



どうやら喉にものを詰まらせた様で必死に咳き込むか呑み込むかしようとしているらしいのだが、上手くいかないようだ。


ソムヌスは椅子から床に座り込むヒカリの背中を少し強めに叩くのだが、なかなかどちらにも良い方にむかない。


パニックといった表情でソムヌスを見るヒカリ。



ソムヌスはヒカリの後ろに回ると、その両脇に腕を回して半ば持ち上げるようにして、みぞおちの辺りで手を組む。



「いけるか分からないが、頑張るんだ」



組んだ手を素早く自分の方へ力がかかるように何度か引く。
そうすると揺さぶられたヒカリの口から詰まった食べ物が吐き出された。



「ゲホッ!!ゲホッ!!──すみませんっ、ゲホゲホ!!─はぁ・・・早く食べなくてはと思ってっゲホッ!!」



「はぁ・・・。頼むから、無謀な事はしないでくれ」



へたり込むヒカリの背をさすってやる。



「すみません、汚くて・・・すぐに片付けます」



ヒカリはナプキンで包んでゴミ箱へとそれを捨てる。



「とりあえず、水を飲むんだ。食べ物は一口ずつ」



椅子を引いてヒカリを座らせると、自身もテーブルについて食べ始める。



「まったく、しばらくは目が離せないぞ・・・」




「本当に??」



「は??」



何気なく言った一言に、ヒカリが目を輝かせている事に困惑する。
そのソムヌスの顔に我に返ったヒカリが俯いて言う。



「え、あ、いや、あの…また一緒にお食事出来るんだなぁって…思ってしまって」



その言葉や、少し恥ずかしそうにしつつも、こちらをチラリと見やるそのいじらしい態度に、胸の中がとてもギュッとする感覚に襲われたソムヌス。



「ヒカリが望むなら、いつでも付き合おう」



「あ・・・じゃあ、明日も一緒に食べましょうね」



もっと喜んでくれるかと思ったのだが、何故か一瞬考えたような間をもって、ヒカリが慌てて作った笑顔でそう言うのをソムヌスは不思議に感じた。



1時間後、マテルが片付けに来る。

ソムヌスが先のヒカリの事について何の気なしに話すと、ものすごい威圧感を放たれてじとりと睨まれてしまった。



「ヒカリ様、元気になるために日光を浴びた方がよろしいですよ。散歩で体力つけがてら、ウェナスの川辺でも散策されてはどうですかい?」



マテルの提案にヒカリが頷く。
ソムヌスは、女二人のたわいも無い話しの風景を眺めていると、マテルと視線が合う。



「じゃあ、そういう事なので、ソムヌス様頼みましたよ。あたしは厩務員に声掛けてきますからね」



「あ、ああ…」



「はぁ・・・。それじゃあヒカリ様、お部屋に外着を用意しておりますからね、それを着て下さい。それでは失礼しますよ」



トレーに食器を乗せてマテルは部屋を出ていった。



「ソムヌス様、大丈夫ですか?あの、用事があるのなら私ひとりでも大丈夫ですから…」



「いきなり一人で行動は危ないだろう。先も言った通り、仕事は片付いている様なものだ。帰ってきてから途中の物はやるから、一緒に行こう」



ヒカリの頭に軽く手のひらを乗せる。
不安げな顔がこちらを見た。



「あの、それでは着替えてきますね。ソムヌス様のお着替えは先程マテルが持ってきていたのであちらにあります」


「ああ。着替えたら部屋まで行こうか」


「いえ、厩舎でいいですよ」


「わかった」


ヒカリは早足で部屋を出ていった。


ソムヌスはやれやれと言ったようにため息をつくとクローゼットへと進む。
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