FF15
□素直になるという事
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「さ、もう良いでしょう…て、ありゃりゃ…」
暖炉の前で髪を乾かしているうちにヒカリは眠ってしまっていた。
マテルは少し笑って彼女の髪に香油を少しつけて保湿がてら髪をといてやる。
「んー、さてと。ちょっと待っといてね」
マテルはひざ掛けをヒカリへと掛けてやると、暖炉の火を落としてから部屋を出る。
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トントントン
「(誰だこんな夜更けに…)」
ソムヌスはノックの音にペンを置き、扉へと歩み寄ると開く。
「どうも、こんばんは。起きていらしたんですね」
「あ、えっと…マテル、だったか。どうしたんだ?」
マテルに苦手意識を持つソムヌスだったが、そんな事はお構い無しに彼女は笑いかけると手招きをしてくる。
「…なんだ?」
「いやぁ、ヒカリ様が途中で眠ってしまったんでね。他の男達でも良かったんですが一応、婚約者様の方がいいと思いまして」
わざと「婚約者」という単語を使って見たら、案の定ソムヌスが何か思った表情になったのをマテルは見逃さなかった。
何かを言いかけたソムヌスを見ないフリをして誘導していく。
終始無言のまま、マテルに部屋を案内されて中に入ると、火の落ちた暖炉の前のソファでヒカリが規則正しい寝息を立てていた。
「やっぱり、お姫様抱っこってやつをするんですかい??」
ソムヌスがどうやって運ぼうかと悩んでいると、マテルが半ば好奇心を出してそう聞いてくる。
「いや、あれは意識のないものを運ぶのには少し危険だぞ・・・ヒカリ」
マテルに説明を挟みながらも、屈んでヒカリに呼びかけるが、特に反応がない。
「はぁ・・・仕方無い、か。マテル、手伝ってくれ」
もしかしたら途中で起きるかもしれないと思いつつも、横になっているヒカリを2人で体勢を変えてソムヌスの背に負ぶさる形にする。
「んー・・・」
頭がもたれかかると、動きに反応したのかヒカリが小さくうなりソムヌスにかかる腕に微かに力をこめた。
「起きそうにありませんね。よっぽど居心地がいいみたいですよ」
「さぁ、どうだかな」
ゆっくりと立ち上がり部屋を出る。後ろではマテルが鍵を閉める音がした。
「それじゃあ、あたしはこれでお暇しますよ。もうこんなに遅くなっちまって・・・明日また美味しい朝食お持ちしますんでね」
「あ、お、おい!!」
マテルはソムヌスの制止も聞かずに、そそくさと屋敷の広間の方へと走り去っていった。
仕方なくヒカリの部屋へと行くが、着いた矢先に扉が開かない。
「何故鍵がかかっているんだ・・・」
はぁ、とため息をついて踵を返す。
仕方無い、と体を縦へ揺すってヒカリの脚へ手をかけ直すと自分の部屋へ戻る。
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部屋に着くとヒカリをベッドへゆっくりと降ろした。
靴を脱がせて横にしてやり、そっと布団をかけてやる。
「はぁ・・・」
ソムヌスは机に戻ってペンを持とうとするが、どうも集中力が途切れてしまったようで気が乗らなかった。
視線がどうしてもヒカリの方へ向いてしまうのだ。
これもまた「仕方無い」と、最近の口癖を心の中で呟くとペンを台座において、ランタンを持ちベッドへと向かう。
「(・・・怒られるだろうか)」
しばらく手狭な寝床を見て考える。
あれだけ色々な事があった後で、その隣に居ていいものかとソムヌスなりに気負いしている部分はあった。
近くまで椅子を引いて座る。
先程から眠りを誘う様なこの香りはどうやらヒカリの髪から香っているようで、心地よく瞼が重いのだ。
長い間考えを巡らせて、やっぱりやめようと、ランタンの火を落とそうとした時にもぞもぞと動く音に視線を移す。
「・・・ん…あれ??マテル・・・??」
ヒカリは身体を起こして目をこする。
段々と自分が先までいた場所と違う事に気が付くと、気配の主を見上げる。
「ソム、ヌス、様…。・・・!!ソムヌス様!?」
ハッとして両手で顔を抑え驚くヒカリ。
慌ててベッドから降りると、ソムヌスに向かって起立不動となる。
「よく眠っていたな。いや、マテルに頼まれて部屋まで運んだんだが・・・鍵が閉まっていてな。仕方ないから俺の部屋まで連れてきただけだ」
ソムヌスは眠気から堪らずベッドへ腰掛けると靴をとりあえず脱いだ。
ヒカリはそばにある椅子へと腰掛ける。
「すみません、なんだか占領していたみたいですね。 私、さっき髪を乾かした部屋まで戻り…」
「そこはマテルが鍵を閉めていたぞ。・・・そうか、なるほど。あの者のイタズラか。してやられたな」
急激にくる睡魔に、額をおさえる。
マテルには明日文句を言うにして、あとは…と考えるが頭が回らない。
「廊下に寝転がるのも下品ですよね…。ソムヌス様?」
堪らずヒカリの手首を片手で掴む。
ヒカリは驚き、しかし、虚ろ虚ろなソムヌスを見て慌てて隣へと座る。
「今日はもう一緒に・・・すまないが、とても眠いんだ・・・だから・・・」
「あ、あのっ・・・ソムヌス、様っ!!わっ!?」
そのままソムヌスに重心を掛けられてベッドへ横たわる。
最後の力を振り絞ってソムヌスは布団を荒々しく掛けて、力尽きた。
そのまま抱きとめられる形で、ソムヌスの寝息がヒカリの額をくすぐる。
「(・・・今日はもう考えるのはやめよう)」
ヒカリはなすがままにゆっくりと瞼を閉じる。
髪から微かに香る花の香りに安心してそのまま眠りについた。