FF15

□あなたを信じて待つ
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戦地からやっと帰還することが出来た。
ルシス国へ僅かに遠い途中の森に美しい青紫のハナイチゲを見つけて、それを携えて国の門をくぐる。


「ソムヌス様のご帰還!!」
「ソムヌス様ーー!!」


国民が口々にその名を叫んだ。
半分以上がそれで、半分以下は路地裏や物陰でこちらを恨めしそうに見ている。


この国には2つの静かな派閥が存在した。
1つは兄アーデンを慕うもの
2つは弟ソムヌスを慕うもの

兄弟とは言え、助け合うには難しい差がそこには歴然としていた。


「馬鹿野郎!!お前なんか戦地で死んじまえばよかったんだ!!」


ヒュッと風を切って飛んできた石がソムヌスの頬を掠めたのと同時に、子供の罵声が飛んできた。
一斉に離れる大人達のおかげで、当事者が一瞬であぶりだされる。


「無礼者!!おい!そのガキを捕まえろ!!」


尚も、地面から大雑把に土とともに小石を両手でかき集めるとソムヌス目掛けて子供はそれを投げてくる。
慌てた兵達が声を上げて乱暴なまでに一斉に駆けつけようとした。


「いや、良い。待て。」


「えっあっ・・・はい!!」


ソムヌスの制しに兵があっけに取られて止まったが、次の瞬間、彼目がけて土が舞い上がり被ることとなる。


「捕まえるなら捕まえろ!!お前に母ちゃん殺されたんだ!!オレはお前なんか怖くなんてないんだぞ!!」


そう言いながらも空になって握られた土まみれの拳は震えて、当人の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。


「なんでアーデン様に頼んでくれなかったんだよお!!お前ら兄弟なんだろ!!お前があの時アーデン様に言ってくれたら母ちゃん助かったじゃないかあ!!俺も頼んだじゃないか!!うああああああ!!!」


張り裂かんばかりに挙げられた声と泣き声に周囲の歓声を上げていた者が次々にその場がシラケたことに去っていく。


「ソっ・・・ソムヌス様っ…如何しま…」


「その者に金貨をくれてやれ。…行くぞ。」


進む部隊の後ろで薄れていく子供の姿。
いつも自分の帰る場所に戻れば、兄との比較に心を歪ませる己。

土を被ったハナイチゲの束を軽く振ってその汚れを振り落とした。




****

「アーデン様、ソムヌス様がお帰りになられました。」


その頃ちょうど近くの町から戻ったアーデンが着替えを済ませていた。
側付きがその知らせを告げるとなんとも言えない表情で「わかったよ」とそっと発する。


「あ、ついでで悪いんだが…エイラと一緒にヒカリも王の間へ呼んでおいてくれないか。ソムヌスが喜ぶ。」


フッと笑顔を見せたアーデンに気の抜けた表情を浮かべたが、直ぐに「かしこまりました」と部屋を出た側付き。

兄弟関係は年々冷めて行く中、兄である自分の心配を嫌がる弟を、つなぎ止めてくれる唯一の存在にアーデンは感謝していた。


着替え終わると、テーブルに置かれた2種類のハナイチゲの色を分けていく。


「あー。バラバラだと…持って行きにくいかな。」


アーデンは部屋を見渡すと、閃いた表情をしてカーテンの留め紐を2つ解いた。



*****


「失礼します!!ヒカリ様、ただいまアーデン様の使者より、ソッ!ソムヌス様がご帰還なされた故、王の間へお越しをと知らせがっ!!」


「えっ!あっ…わっ!!?イッッッ…」


侍女アミューに突然開けられた扉とその知らせに驚いて分厚い本をテーブルから落とすヒカリ。
落ちた本の角が足の甲に直撃したのをうずくまって声を殺し痛みに耐える。


「きゃあ!!しししし失礼しました!!…ヒカリ様…??」


「うっ…わ、わかりました。急いで支度を…エイラ様と一緒に行きましょう…痛たた…」


ヒカリ・ノルン・コーディス
彼女はフルーレ家エイラ父の妹を母に持つ、エイラの従姉妹だ。

神凪の有事に、彼女が次の神凪として任を受ける人物でもあり

今や兄弟で冷えきる関係のチェラム家とは違い、権力の争い事は一切なくエイラとヒカリは常に仲がいいと評判だった。

そして、エイラがアーデンと婚約し、
それに続くようにしてヒカリにはソムヌスと許嫁とされている。


「あっ!アミュー!!確か今はまだエイラ様はお祈りの──」



「ヒカリ?…はぁ。こんな事だろうと思ったわ。」


そこへエイラ本人が現れる。
慌てふためく女子二人を見やると頬に手を当ててため息をついた。


「ほら、急がないと。部隊がそこまで来てるわよ。許嫁の貴女が出迎えないなんてまた避けられても仕方ないんだからね?」


以前、この侍女にしてこの女主人ありと言わざるを得ない状況になった事がある。
片や予定管理に疎く、仕事に忙殺されて大事な要件を忘れる侍女
片や何か夢中になると時を忘れて体調まで崩す女主人。

フィアンセの帰還や呼び出しにすっかり忘れて不興を買い、一定期間口も聞いてもらえない事がたまにあった。


元々クビになるはずのアミューが城門前で泣いていたのを見かねたヒカリがお人好しにも拾ったせいで、こんなガサツな結果になったのだ。
元いた侍女の1人が結婚で遠い地に嫁いだから丁度いいと元気づけていた。
その結果がそういう事なのにヒカリは笑って許すばかり。


「あ、でもまだ支度が…」


「もう、早く着替えなさい!!礼服に着替えたならあとは歩きながら身なりを整えてちょうだい!!」


「あのぅ…エイラ様…そのっ…」


「どうしたのアミュー」


「ヒカリ様の礼服ですが…以前使った後に手入れに出すのを忘れていたみたいで…」


「・・・はぁ。もう・・・。私の予備を持ってきておいて良かったわ…」



そうこうと、ドタバタ劇を直ぐに終わらせて王の間へと駆けつける神凪一行。

エイラはその場に相応しい態度で凛としているが、後ろのポンコツ女子二人はひいひいと肩で息をしている。


「そんなに急がなくてもまだ間に合ったろうに」


アーデンが苦笑いでそういうと、エイラは「時の神がいても時間が足りない程」と呆れ顔で伝えた。



「アーデン、その花束は??」


エイラは彼の両手に収まる色違いに分けられたハナイチゲの束を見やる。
アーデンがその言葉に優しく笑う。


「人助けしたら、貰ったからさ。男の部屋にあるよりは・・・って思って。たしかヒカリはハナイチゲ好きだったよな。ただし、赤はエイラに渡したくて。」


「エイラ様、ハナイチゲの赤の花言葉は、君を愛す なんですよ。」



「そう・・・。ありがとうアーデン。」


そう言ってエイラはアーデンに優しくハグをした。
その光景に胸がときめくヒカリと侍女のアミュー。


アーデンがエイラに花束を渡し優しいキスをした後、ヒカリへ白いハナイチゲの花束を渡した瞬間、王の間への扉が開く音が響いた。
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