その他詰め合わせ

□温かさ
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春の小川近くに立つ宿。
そこへ宿泊手続きをすませた後、ひかりは薬売りを散歩に誘った。


「はぁ…あったかいなぁ…わあっ!大きな桜ですね〜!!ヨイショ。あっ!…ほっほぉっ!あー!!」


緑の斜面に座り、目の前にヒラヒラ舞う花びらを掴もうと挑み失敗するひかり。


それを気にもしていないように、薬売りは薬箱を傍らに置いて突っ立ったまま川を見ていた。


下の方では、何処かの母親が遊びはしゃぐ子供を見守っている。


「お散歩なんですから、薬箱、置いてくればよかったのに。」

「こいつを誰かにいじられたりしたらたまらない…。それに、薬売りは…薬を売り歩くもの、ですよ…。ほら。」


「わーん!!おっかぁ!!」


薬売りの言葉の後、まるで決まったように下で子供が喚いた。

「うわっ…薬売りさん!」


「はいはい。…コイツを塗ってやれば治りは早…」


ひかりは薬売りの手のひらから練り薬の入った小さな陶器をつかみ取ると、次の瞬間には下の子供のそばにいっていた。

「…気が早い事で。」


薬売りは上から一部始終を見つめる。


暫くして、ひかりが斜面を上がって戻ってきた。


「ふうー。薬売りさん、あの親子、ありがとうございますって言ってましたよ!」


「…左様で…」


満面の笑みで、薬売りに報告をすれば座って下の親子を確認しようと見るひかり。


「あらっ…もういなくなっちゃった。…あ、天道虫!」


コロコロかわる興味の対象。
そのたびに無邪気な彼女についつい目がいってしまう。


さっきの子供といい、天道虫といい、共通するのは真。


では、今の自分の気持ちは何だろう。

愚問。
はっきりとわかる。
それは嫉妬だ。


「薬売りさん、一緒に座りましょ──」


言葉よりも先に、ひかりの太ももへ悪くない重さがかかる。


「ひかりの膝枕が一番温かいと感じるんですが…ね。」



やっぱり、ひかりといるのが一番いいさ…。



fin
 

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