その他詰め合わせ

□純粋
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ある日の梅雨空。


「ひかり!!ぼくだ!入るぞ!」


ひかりは西園寺がいつでも入れるように部屋の鍵を締めていない。それは二人で同意した決めごと。

彼女はアンシーと天上のいる寮に一緒にいる。


「…ひかり…」


いつもなら出迎えてくれるのだが、西園寺が部屋のドアを開けると、見える二段ベッド。


そこの下のベッドで胎児のように丸くなって眠る愛しいお姫様。


「…寝ていたのか…。」


チリンチリンと微かに開いた窓からは冷たい風が吊した風鈴をつついていた。


「…風邪引くぞ」


誰が返答するわけでもなく、この空間に気まずさを覚え独り言を言い放つ西園寺。


窓を閉めたり、カーテンを引いたり、落ち着かない。


視線は何をしていても必ず眠るひかりへ戻っていってしまう。


「…くしゅんっ!くしゅんっ!…んんっ…」


くしゃみをする声にびくりと肩が跳ね上がる。


「…びっくりしたっ……ほらっ」


西園寺はベッドをのぞくと、自分の学ランをひかりへ掛けた。


そのままベッドに腰掛けて、彼女の髪をすくう。


「…なんと愛らしい…ひかり…。」


小さな体を抱きしめたい。


その少し開いた薔薇色の唇に人差し指で触れた。


殆ど無意識に彼女と同じように傾ける体。


西園寺が眠るひかりに口付けをしようとすると、寸前にばっちりと目があった。


「あ…西園寺先輩?」


「がっ…ひかり!!…」


西園寺は飛び起きて、奇妙に後ずさりする。


「(ぼくとしたことが!!何という破廉恥なことをっ!!)」


頭が真っ白になのに、顔は真っ赤になる。
穴があれば入りたい気分だ。


「…ごめんなさい、西園寺先輩。私…寝ちゃって…あ、学ラン…」


「かっ、風邪を引くと思ってだなっ……」


「…?大丈夫ですか?」


目の前で不思議そうに小首を傾げるひかり。

さらに全身が暑くなる。


「…はっくしゅんっ!えっくしゅっ…」


「ひかり、君こそ大丈夫か!?…窓開けて寝てるからだ。」

離れたと思えば、また近くに寄ってくる西園寺を見て、内心微笑ましく温かくなるひかり。


「…ちょっと冷えたようですね。」


「…そ、そうか…。…その、だな…恋人は温めあうものだろう?…何というか…だな…」


急に指をちょこちょこ合わせ恥ずかしがる彼は、普段とはギャップがある。


学校で、勘違いされてしまうのは可哀相だがしかたがない。


強がるのは寂しさから。
人を遠ざけてしまうのは、自分が惨めになりたくないから。


こんなにも、正直で誠実な人はあまりいないだろう。


「途中、温かくなったら良い夢をちょっとだけ見たんですよ。だから西園寺先輩と一緒にお昼寝したら次はもっと良い夢見れると思うんです。」


はれんち【破廉恥】
普通ならはずかしくてできないようなことをしていながら、平気でいること。


彼は破廉恥を嫌う。
それはきっと、今まで信じてきたモノに裏切られたからこその反動なのかもしれない。



そっと彼の元に私がすがって彼も私に甘えてくれればいい。



「ひかり…。」



ひかりはそっと西園寺の胸に顔を埋めた。


彼の鼓動は少し早かったけれど、何故か落ち着く温かさ。



「…これからも、たまにこうしていいか?」



「はい。…」



fin。
 

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