FF15

□素直になるという事
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「どう…か、ヒカリ様には・・・」



「ああ・・・」



ソムヌスはブストに口止めをして先に戻るように伝えて、地下牢へ籠る。
何度か彼女の名前を呼びかけて、仕舞いには自分の名も伝えた所で理性を取り戻したのか、シガイ化した手脚が縮んで形は元の人間へと戻る。



「(言えるはずがない・・・これはもう無理だ)」



一瞬兄が頭に過った。兄ならこのシガイ化を止められるのかと。無理だ。これはシガイ化ではなく、もはやシガイそのモノ。



「・・・何故そうなった」



「わかりません。ただ、ルシスを出る時にはもう病に掛かっていて・・・もうお傍に居られないと思い、遠い地を目指しました。・・・ルシスでだって、ヒカリ様がいたから何とか生きてこれたのに、私が他所の給仕で務めるには何処もダメで・・・」



「・・・兄上には相談…しなかったのか」



頭が痛い。何故こんな事になったのかと考える。



「私はヒカリ様の侍女ですよ。ソムヌス様はヒカリ様が嫌いと言う者に頼ったりしますか?」



「何を・・・言っている」



「ヒカリ様が愛する人の嫌いな人に頼れません。だから、この穢れた身は自分で何とかしようとおもったんです。誰にも迷惑をかけず、誰にも知られないようにって・・・」



「何を勝手なことを!!ヒカリは、アイツはお前が居なくなって寂しがっていたんだぞ!?」



ヒカリが時々アミューの思い出を語る時があった。
どんな時もおっちょこちょいで、一緒に怒られ、一緒に泣き、嬉しいと抱き合い、寂しい時はお互い一緒に眠って朝には女官長に怒られて・・・とても愛おしい姉妹のように思っていると。


だが今ここにいるアミューは、ソムヌスに呆れられて泣いていたあの時の頼りないヒカリの侍女では無く、死を悟り自分で全てを仕舞いにしようと思う人間だった。



「!!そうだ・・・兄上に手紙を・・・連れてこよう、5日ほど待っていてくれ、そうすれば・・・」



「いいえ。私の意識はもうそんなに持たないんですソムヌス様。今こうやって知ってる人に会えた事だけが救いです・・・ヒカリ様に一目会いたかったですけれど」



コケた目元の皺が目立つアミューの笑顔。




「(俺の・・・せい、なのか・・・)」



ソムヌスは地下牢から出ると、屋敷の通路のドアの前で座り込んだ。



アミューの最後言葉は「殺して貰いたい」というものだった。

それが、自分のシガイへの始末の方法ならここで曲げてはいけないと無常にも言われてしまった。


アミューはルシスから出る時に、女官長に手紙を書き溜めて渡していたらしい。
旅に出たこと、旅での話し、新しい奉仕先の様子に、最後は愛する人が出来て、子を為し、ヒカリの侍女として戻れない事を印して遠い思い出になろうと。




「(俺には誰も救えない・・・)」



己の手のひらを見る。
シガイ化、疑わしいものすべてを焼き払ってきた。

兄にはそれを治す力があり、ヒカリには怪我したものを治癒する力もある。

自分には人を傷つけるだけの力しかない。



「クソッ!!」


石壁に拳を思い切りぶつける。


酒と、先の問題のせいで頭が回らない。
何より、婚約を解消した元フィアンセの笑顔が罪悪感を引き立たせる。



──ソムヌス様は酷いのね

──ソムヌス、お前は口だけだな

──お前は嫉妬ばかりで人の事など考えない



「うるさい・・・うるさい!!」



──ヒカリを見捨てたのではなく貴方が見捨てられたのよ

──僕のお母さんを殺した人殺し!!

──アーデン様にはあの力が有るのに

──兄はよく出来た方なのに弟の方はまるで・・・



頭の中で、自分の事を口々に言う者達がこびり付く。


「やめろ!!もう・・・辞めてくれ!!なんだ・・・これはっ・・・ぐっ──」


急に身体の中から込み上げるものに、思わず口を塞いだがそれでは止めることが出来なかった。

ボタボタと酸っぱい物が溢れ出る。



「ふっ・・・お前が自分で溜めてきた呪いに気付いてもらえたかな??領主の息子」



「はぁ・・・はぁ・・・ル、ティヤ・・・うっぐっ──」



蹴り上げられて床に伏せるソムヌス。



「無様だな・・・どうだ?もう疲れただろう。兄を越すことも出来ず、皆に比べられ、人を傷つける己に・・・」



「な、にを・・・言って・・・」



「今すぐ代わってやろう・・・お前は無になる・・・何も悩む事が無いように…」



ルティヤが屈みソムヌスの額に手を当てる。
見たくないと思いながらも、その目から視線を逸らすことができない。
ルティヤの瞳が深い青から赤く色付いて光る。






********




───起きて、ヒカリ




「はっ!!ケホケホッ!!──えっ…」



あまりの寒さに咳き込んで飛び起きるヒカリ。

今は夜だと言うのに、青白く部屋が光る。そして寒い。昔、川で溺れた時に河底から太陽を覗いた時のように暗く、けれども明るい青の中。


寒さに身を凍えさせながらも裸足のまま無意識に扉へと向かう。ドアが開かない。この吹雪や霜のせいかと思ったが、直感でドアに鍵が掛けられているのだと思った。



「あ、かない・・・」



───集中をして、このドアが開いた時を思い出して。貴方が軽くドアノブに触れて、止めが下がった時の様子を・・・



艶やかな女性のような声の導きの通りに、ここに来た時のことを思い出す。



「・・・開い、た」



──ここから先は力が強過ぎて私には導く事が出来ない



「ち…から…??」



──今なら貴女が私達を置いていかなくてはいけなかったことがよく分かる。ごめんなさい。これはせめてもの贖罪…



その瞬間、見た事のある姿が現れる。
真っ白な雪の精霊。冷たくて優しく気高い・・・



「・・・ありがとう、シヴァ。さぁ、もうお行きなさい」



シヴァと呼ばれた精霊は、懐かしいその声で自分の名を呼ばれた瞬間、目の端から氷の結晶を零し消えていった。



「・・・あれ?私・・・扉を開けて・・・」




ヒカリは何故自分が扉を開けたのか分からずに立ち尽くす。
思わず部屋の外へ顔を出して左右を確認する。


「(人の声・・・??)」


松明こそともってはいるが、建物作りが親切ではなく窓ひとつ無い為に少し奥は闇で行くのには勇気がいった。
その為によく耳をすませる。

後ろから冷たい風が耳を掠めた。



「(行かなきゃ・・・)」
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