FF15

□素直になるという事
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───その日の夜遅く


「あの、マテル」


「おや、ヒカリ様!こんな時間に」


呼び掛けられて振り返ると思わぬ人物に血相を変えて駆け寄るマテル。


「寝てないとダメなんじゃないんですかい?それとも体調が悪いので!?」



ヒカリの肩をグイッと掴み、その額に荒々しく手を当てて熱をみる。両手で顔を包んでみたりと忙しない様にヒカリは揉みくちゃにされ、つい擽ったさに笑みが零れた。



「ううん、大丈夫・・・あのね」




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「まさか5日も風呂に入ってないなんてね・・・たまげましたよ」



「うん、ごめんなさい」



屋敷の客人用の広めの浴室に入る2人。
ヒカリが体調を崩していたのは知っているがまさか風呂に入っていなかった事に驚愕したマテル。
そしてさらに仕事終わりの使用人を誘って一緒に入らないかと言われたことに恐れ多くて断ったのだが、つい、その疲れ切った状態のヒカリを見ていたら母性が揺らいだ。


ヒカリの後に体を洗って、遅れて湯に浸かる。
ヒカリは大きな音を立てて溢れ出る湯の量に少し驚いた。



「こんなこと、ブスト様に知れたらなんと言われるか・・・本当にソムヌス様はそういう事に口を出さないんですかね?」



「ん、多分・・・」



「多分・・・って…。自分が妻に迎える女に無関心ってことは無いでしょうに」



「婚約は解消されてしまったから・・・ソムヌス様が私に何かを言う事はもう無いと思うの」



そう言って反対側にいるマテルの方を何となく見上げると、彼女が目を見開いてこちらを凝視しているのに気付いた。



「はぁあ!?そういう事だったんですかい!?どおりでなんか変だと思ったんだよ!可哀想に…勿体ない!!」




開口一番に驚嘆するマテルは、湯を揺らしながらヒカリに近付くと抱きしめる。




「く、苦しいよマテル…」



「はぁーこんな可愛い娘をほっとくだなんて…お肌もピチピチで…私がヒカリ様なら逃がした魚はでかいよ!!って言ってほかの男に行っちまいますよ!!」


他にいい男はいないのかと聞かれたヒカリは思い付いてもギルガメッシュしか居ないと答えると、なぜかマテルが溜息を着いたことに小首を傾げる。



「確かにいい男だけど、あたしと同じ年の人を言われても・・・それともルシスには若い男がいないんですかい?」



「若い男・・・うーん、ソムヌス様のお兄様にアーデン様がいらっしゃるけれど、アーデン様にはエイラ様という婚約者がいるし・・・あとは臣下や兵達にもいるかな…って感じで」


ここまで言って考えるのをやめた辺り、マテルはわざと聞いてみせた。



「まぁ身分の問題でもなさそうですねぇ。・・・それで、ヒカリ様は諦めていらっしゃるんですかい?ソムヌス様の事」



その質問にヒカリは固まる。


「諦める、と言うよりかは…その、ソムヌス様が嫌だと言うのだから…私がどうこうではなくて…」


継ぎ接ぎの言葉は終着点を見失い、ヒカリは体勢を崩して湯に口をつけてブクブクと息を吐いて誤魔化す。


「素直になってもいいんですよ。その後様子じゃ、ヒカリ様はまだやってやろうっ!!って思ってらっしゃるんでしょう?」



「や、やってやろう、ってそんなんじゃ…」



「じゃあ、あたしが頂いちゃいますよ」



「だ、ダメ!!」



バシャリと音を立てるお湯。
ヒカリの動揺に笑いがこみあげてくる。



「あっはっは!!こんなオバサンが身分違いの親ほど離れた男を狙うわけないでしょうに!!いっひっひっひ!!」



「そ、そんなに笑う事!?…だって、年齢は関係ないはずよ!誰がどんな人を好きでも可笑しくはないわ」



「そうですさ。確かに誰が誰を好きでもいいんですよ。だからこそ、取られないように唾をつけとくんです。まぁそれも相手の気持ち次第なんですがね」



なんとか笑いを落ち着かせようと咳払いをしたマテルは、静かに深刻そうな顔をするヒカリを見て嫌な予感がした。


「アミューのことはブスト様から聞いてるよ。うちの馬鹿領主は2人の事情もよく知らないでこまったもんだ。・・・ねぇ、ヒカリ様はソムヌス様がアミューに手をかけた事恨んでいるのかい」



「・・・あの子の事を気付けなかった私が悪いの。あの子の主人失格なの。だけど、何の相談もなしに…あんな…」




ヒカリはきつく自分の腕を掴んで唇を結んだ。



「アミューはここに来て、あなたの幸せをずっと願ってたよ。・・・無愛想な領主様とのご縁だから心配だけど、きっとヒカリ様の事は幸せにしてくれるって」



「で、でも…私」



自分だけ幸せになるのは出来ないと言おうとするも、マテルが頭を強く押すので言えなかった。


「馬鹿は言いなさんな。他人を理由に不幸になってどうするんですかい?」



ため息混じりにそう言われてヒカリは俯いた。


「・・・でも、私、婚約解消された直前にソムヌス様を殴ってしまってて」



「ヒカリ様がかい!?あっはっは!!自尊心でも傷付けられたかい!!」



「ここに来た時に私の近衛がいたでしょう?今は行方知れずとなってしまったけれど・・・キカトリークの街で出会った人で、何だかそこから上手くいかなくって、二人ともよく睨み合ってて最後は武器を持ち出して争って…それが危なくてついカッとなって…」



ヒカリの話しに、さらに驚かせながらもソムヌスの心境を何となく理解したマテル。



「・・・あなたが殴るなんてのは想像つかないけれど、アレだね、ヒカリ様が近衛に靡いたのが気に入らなかったんだよ。」



「靡くだなんて、そんな・・・」



「いきなり知らない男と仲良くなって、近衛で近くにいたらそりゃあヤキモチも焼きますよ。男ってそこん所は余裕がないって言うか。嫉妬が先走って、自分を強く見せようとして、傷つけるような事しでかすんです」



そういうマテルが少し遠い日を思い出す様に語るのを不思議そうに魅入るヒカリ。



「だからこそ、女がしおらしくして、優しく向かい入れてやるのもひとつの手ですよ?ま、ヒカリ様がその気無いんならこのままほっとくのもアリですけどねぇ」



ニカッと照れくさそうに笑ってマテルが言う。



「あたしからしたら、ソムヌス様はまだあなたの事を熱ーい目で追っかけてるなあって思いますけどね。でも言い出しっぺなもんで中々取り繕うことも出来ないみたいだし、男ってホント馬鹿で可愛い生き物ですよ」



「マテル・・・」



「さ、長風呂になっちまった!!そろそろ出ましょうさ。とにかく、あたしはヒカリ様が幸せになる事をアミューと同じくらい願ってますよ」
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