FF15

□素直になるという事
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あれから5日が過ぎる。

ソムヌスはクレインと協定を無事結んだ。
後続隊と合流し、森林伐採とシガイと野獣駆除を進め、安全な道と領地を大方確保する事に成功した。


地下牢の不安定さに土砂でそれを埋め、新たな施設を作る提案をする。

ブストには地下のシガイの討伐をとても喜ばれたが、ソムヌスにとってはそれは忘れたい過去になる。



ヒカリとは言うと、あれから部屋にこもる生活をしていた。

ソムヌスとギルガメッシュの前には姿を一切表すことが無い。


屋敷の使用人からの話しだと、ヒカリの姿は元よりさらに痩せこけていて食事も殆どが残すか、手をつけないかで下げられるそうだった。


さらに、いつからかルティヤの姿も消えていてその行方を知るものが誰もいない事に不信感を抱き始めたが、今はとりあえずそのままにするしか他に無かった。



「ソムヌス様、ヒカリ様の事はどうされますか??・・・この屋敷の使用人達からは、やはりあまり良い話しを聞くことはありませんでしたが」



よく晴れた空の下で仰向けになってそれを見上げるソムヌスの元へ、ギルガメッシュが今後の予定を相談しに歩み寄った。



「そうか」



今日は風が少し強いがとても気持ちがいい。
ゆっくりと流れる雲をただ眺めた。



「ギルガメッシュ」


「はっ」


「5日後に出発する。」



ソムヌスは立ち上がると屋敷の方へと歩いていった。






********



「・・・何日目・・・だっけ」


あれから泣き続け、なかなか眠ることも出来ずに過ごした。
はやく、上辺だけでも元気にならないといけないのは分かってはいたのだが、どうしてもその気になれない。


眠気がくると、どこかから決まって声がした。男とも女ともつかぬ声が「早く楽になればいい」と追いかけてくる。


ヒカリはベッドから起き上がって立とうとしたが、よろけてテーブルの水差しを割ってしまう。



「(・・・片付けなきゃ・・・)」



素足に迫る水が気持ち悪い。
そう思いながら、木の窓も閉めた薄暗い部屋で破片を拾い上げる。


まず大きいものから、拾い上げてその上に順番に小さいものを乗せていく。
ふと、中ほどの大きさの破片を手にして思った。

このまま、それを、手首に・・・



──トントントン



ノックの音に我に返ったヒカリ。
手に持った破片をテーブルの上におき、致し方なく着衣で濡れた手を拭く。


もう食事の時間なのかと思いながら、鍵を解錠した。
その瞬間だった。
外の人物が待ちきれなかったのかタイミングが重なりヒカリがノブを下げるより先に扉が開かれた。



「・・・ヒカリ?・・・入る、ぞ?」


久しぶりに聞く声に、ヒカリは複雑な心境だった。反射的に開いたドアの内角へと引っ込む。

一方ソムヌスは、開かないと思っていたドアが開かれた事に若干面食らったようで、恐る恐るといったように部屋へと踏み込んだ。


そのまま窓へと進み、木戸を開くと眩しい光が部屋を一瞬で照らし、爽やかな風が通り抜けた。


ヒカリは強い光に思わず手で目を覆う。
少しずつ指の間を広げて眼を明かりに慣らしていくと、窓の前にはソムヌスが立っていて逆光になっていて表情は分かりにくいものの、こちらを見ていた。



「すまない、眩しかったか・・・」


声だけ聞くとバツの悪そうな感じで、そう言ったソムヌスは木戸を半分ほど引き戻した。



「5日後にここをたつ。・・・使用人達からヒカリの様子を聞いていたのだが、どうも今すぐに行動を起こさなければいけないと思ったんだ」



ソムヌスはヒカリの前まで来て屈む。



「・・・俺が言えるような立場じゃないのは分かっているが、ここまで連れてきたのも俺の責任だ。だからどうか、ルシスへ連れて帰れる位には体調を整えて欲しいんだが、どうだろうか」


ヒカリはゆっくりと目から手を離して、考えた。
確かにここは他人の屋敷で、いくらソムヌスに仕事があるからと言えどもここでこうしていても仕方が無い。

ならば早くルシスへ戻って、また昔の何も無い日々を淡々と過ごした方が気が楽だ。



「あ・・・」



「はい」と言うつもりが、上手く声が出なかった。微かに震え始めた自分の手をもう片手で強く手首を握る。


「立てるか?」


「・・・」


ヒカリはゆっくりと手をついて、なんとか立ち上がる。
立ちくらみが生じたが、ドアを掴み堪える。

ソムヌスは決して手を出さなかった。


「歩けるか?」


ヒカリはこくりと頷く。
ソムヌスは掛けてあったヒカリのローブを取り、そっと彼女自身に触れないように、その肩へと掛けた。


しかし、ヒカリが扉から出ようとするとちょうど屋敷の使用人が食事を持ってきていて鉢合わせる。



「あらま、ヒカリ様。今日は気分がよろしいので??…おや、ソムヌス様とご一緒でしたかー」



少しクレインの田舎訛りの残る言葉でそういう彼女は使用人のマテル、少し貫禄のあるずっしりとした体格で街でよく見る「お母さん」という感じだ。


何故か自分を見つめる2人にニッコリと笑顔を作ると彼女は「とりあえず、中に入れてもらってよろしいですかい?」とトレーを見せつけるように1度あげる。


ヒカリが食べるのにはいささか量が多いと驚いたが、彼女は「今日は特別ですからねぇ」と呟いた。



「何を立っているんですかい!ほら、食事は座ってゆっくりと摂りましょう!さあさあ!」


窓際のテーブルにトレーを置いて、ヒカリを半ば強引に椅子に座らせる。

それを見ていたソムヌスにも彼女は、ぱんぱんの手で背中を押し、ヒカリの向かいの椅子へと腰掛けさせた。



「さ、今日こそは食べて貰いますからね!!目標はパン5個!!きちんとサラダもスープも飲み干していただきますよ!!」



「ご、5個・・・?」


「ああ、ブスト様には言っておきますからねぇ。んじゃ、ソムヌス様の分もありますから!!呼ぶ手間が省けて良かった良かった!!」


あっはっは!!と笑ってドアから出ていくマテルに呆気に取られた2人だが、沈黙の内に我にかえる。



「・・・よく分からないが・・・ヒカリ、食べられるのか??」



目の前のバスケットに大小様々な大きさ形のパンがつまれている。
ジャムも同等くらい量があると、ソムヌスは引きながらもヒカリの表情を伺った。


「マテルは・・・アミューを見てくれていた人なんだそうです・・・。ここ何日か、私の面倒を見てくれて。そう言えば昨日は「明日も食べなきゃ監視しますから」と言われた気が・・・」



久しぶりに聞くヒカリの声はどこか辛そうではあったが、マテルの話をしているだけでも少し抑揚がついた気がしてこの先いつかまた普通に話せる日も遠くはないはずだとソムヌスは思った。



「監視と言っていたが・・・」



「ソムヌス様の事だと思います…」



「・・・そうか」



なんとも唐突な、それでも自分のしようとした事と状況は大差ないかと納得したソムヌスはとりあえず目の前のパンを1つとって見せた。


「なんだか、酸味がないか??」


そのまま齧り付くと、ルシスでは食べたことの無いような酸味を感じて眉を顰めたソムヌス。

心做しか、パンが黒い気もする。


「麦の種類が変わっているのだとかで、私も食べた時は少し驚きました」


ヒカリは目の前のパンの山を見つめる。
ソムヌスは齧りかけの物を半分に割って、口のつけていない方をヒカリの皿へと置く。


「この量はさすがに捌ききれないな。無理して詰め込まない方がいい」


バリバリ、モサモサと口を動かす。
下手なおしゃべりより口が疲れる作業だと思った。


ヒカリの様子を見ると、しばらくしてから分けられたパンを手に取りジャムを塗り始めると、小さな一口で食べてくれた。



「んっ─」


途端に険しい顔になると自分の頬を抑え始める。


「大丈夫か?!」


異物混入か、毒か、口の中を噛んだのかと焦りヒカリに詰め寄ったソムヌス。



「・・・久しぶりに味の濃いものを食べたので、頬がビックリしたみたいです」



「そうか・・・そうだったか」



驚いた自分に馬鹿だな、と思いながらまた元の位置に戻る。


そのまま黙々と食事を続けていく2人だったが、最終的にソムヌスが限界まで食べていった。
ヒカリは何度か止めようとしたのだが、意地になっていた彼はそれでも諦めなかった。


1時間後にマテルが現れる。



「失礼しま・・・おやまぁ、別に残して頂いても良かったのにねぇ。あまりモンは私らで持って帰れるんですし」


そう言うと食器を片付けていく。
それをソムヌスは恨めしい目で眺める。



「あの、マテル。ごちそうさまでした」



ヒカリが慌てて礼を言うと、マテルは手を止めることなく笑顔で返事をした。



「身分の低いあたしらには高貴な方とお食事は恐れ多くて・・・ほら、誰かと食べるご飯は美味しいでしょう?あたしらがダメなら同じ身分の人間を連れてきたらいいと思いましてね。ヒカリ様がいつもより食べてくれただけで嬉しいですよ」



そう話をしているうちに紅茶の用意が進む。



「・・・クレインでは身分に厳しいの?」



ヒカリの質問に、その割にはブストとやり合っている様子はあるのにとソムヌスは内心思いつつも口に出さなかった。



「アミューから聞いていましたよ。その時は給仕の皆は驚いてましたからね。神凪の一族が侍女とそんな事するわけないって。普通は他の者に止められるのに・・・」



アミューの名を聞いたヒカリの表情が曇る。



「そしたらあの子、私の主人はそんな事気にしないし、ルシスの領主もそれを咎めたりしないって。短い間だったけどさ、あの子ホントに恵まれた子だよ──さ、これを飲んで元気だしてくださいよ」



そう言って差し出されたカップを手に取り、ゆっくりと口にする。

その味は、あの時楽しかったアミューとの楽しい日々を思い出すのには十分な甘さだった。
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