FF15
□私と貴方と
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───それから4日後、朝
「たぁ!!」
「集中力がまた切れてきたぞ」
「はい!!…やあ!!」
木刀が強くぶつかり合う音が街の離れに鳴り続く。
あれからヒカリは自分の護身だけでもとルティヤへ武術の教えを懇願し、それを何も言うことなく彼は引き受けてくれた。
「うっ!!…はぁ!!わっ!?」
手加減はされているが、やはり重い一撃に、ヒカリの手のひらのまめや水膨れが悲鳴を上げる。
そのまま薙ぎ払われた木刀が後ろへと飛ぶのと同時にヒカリは尻餅をついた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ふぅ・・・痛っ!!」
無意識についた手に鈍い痛みが走る。
手のひらを見ると皮膚が破けて赤い肉がヒリヒリと主張していた。
「今日はここまでだ。戻ろう」
ルティヤはヒカリの腕を掴むと引き上げ立たせる。
その時少し合う視線に、ヒカリはソムヌスの瞳と無意識に錯覚してしまいどうも調子が狂う気がした。
町へ戻るとちょうど負傷した兵と交代したルシスの兵が到着していた。
あの後、ヒカリはエイラとアーデン宛に手紙を送りやり取りをしていたのだ。
そして、アーデンから兵たちの入替えを提案されていた。
クレイン領へは無論アーデンが手紙を書いてくれていて、到着が予定より遅れることを予め伝達済みである。
ギルガメッシュを筆頭にソムヌスの容態とこれからの事を話し合う臣下たち。
もしこのまま長引くのなら本国に引き返すことも視野に入れていた。
********
ヒカリは籠にパンと水筒を詰めてルティヤを探す。
いつも食事の時間にルティヤが姿を表さないのを兵から聞きいていた。
「いた!ルティヤ!!」
「どうした。稽古の時間はまだ先のはずだが」
元気よく走り寄ってくるヒカリに表情ひとつ変えないルティヤ。
「一緒に食べましょう!!私持ってきました!!っうわっ!?」
草の柔らかい土に足を取られて転倒しかけるヒカリをすかさず支えるルティヤの手。
「そういう所が不注意なのでは」
「ごめんなさい…」
ヒカリの気まずそうな謝罪の後すぐに鳴る彼女の腹の虫の鳴き声。
2人は少し歩くと町を見渡せる子高い丘の上に着く。
「どうぞ」
ヒカリがバスケットの中から濡れたおしぼりをルティヤに差し出したが、それを彼は受け取らなかった。
「私は要らない」
「え?…でも朝から動いていてお腹が空くでしょう?遠慮しないで!」
「腹は減っていない。だから食べる必要もない。・・・無理矢理食べさせるものでもないのだろう?」
「そうだけれど・・・」
ヒカリは食べ物を頑なに受け取らないルティヤに疑問を持ちながらもパンにジャムを塗ってそれを頬張る。
朝から何も食べなかった口の中で甘酸っぱいジャムの味がとても刺激的で、思わず顔を顰めて頬をおさえた。
「面白い顔をするのだな…」
チラリと鋭い目瞳がヒカリを見やった。
「そういえば、ルティヤは高い所が好きなのですか??初めてあった日から何度かあそこでここに居るあなたを見掛けていたから気になって…」
「上から見た方が分かる事か多いからな」
そう言いながらその眼差しは下の町を捉えた。
ヒカリもつられて見ると、広場にギルガメッシュと兵達が数人で集まっている。
「あ、ギルガメッシュだわ。…何かあったのかしら…」
「貴女を探しているのでは?」
「えっ」
その言葉にヒカリが驚くより先に、ルティヤがギルガメッシュの方へ小石を投げ放った。
その小石が広場の噴水の縁に当たると、ギルガメッシュが飛んできた方へ視線を向けた後に指を指して兵達が向かってきた。
「さ、行くぞ。」
「ど、何処へ??」
「・・・目覚めたようだ。迎えを待つまでもなかろう」
「ソムヌス様が!?」
ヒカリは大慌てで丘を下って行った。
───────
「(俺は・・・)」
窓からの陽射しが眩しい。
目覚めたくない朝がやってきた事に気分が酷く悪い。
「(あの後どうなった、ヒカリは・・・)」
ギルガメッシュと残りの兵があのシガイを仕留めたのだろうか。
だとしたらヒカリは?いつも傍にいてくれた彼女の姿がないのは何故だと心に黒いモヤが立ち込める。
寝ている場合でもない。
「(ヒカリは・・・彼女はどうなった・・・!!)」
腕に力を込めて動く。足が重い。
ソムヌスはバランスを崩して床へ倒れた。
「うっ、ぐっ・・・ゴホッゴホッ」
一瞬嫌な頭の妄想と共に、空っぽの胃から饐えた液を訴えたまでに吐き出した。
呼吸と言うには意識を集中しないと分からない息の繰り返しをして、その場にうずくまる。
そのうちに耳鳴りと、自分の部屋がグルグルと回る感覚に支配されて目の前が真っ暗になって瞼を閉じやり過ごそうとする。
篭った一定の嫌な音に紛れて、こちらに向かってくる数人の足音が聞こえてきた。
「ソムヌス様!!─大変!!ルティヤ、手を貸して!!」
ヒカリはドアを勢いよく開けた。
まずベッドを先に見たがそこにソムヌスの姿がないことに気が付き視線をずらせば、床に倒れている姿を見つけ驚愕した。
ルティヤは言われた通りにソムヌスをベッドに抱えあげる。
「混乱状態と言ったところだな」
「ルティヤ、分かるの?」
「あのシガイは少し特徴のある奴でな。色んな状態異常を招く厄介な攻撃を持っているんだ。普通なら死んでいただろうに…貴女の力がそれを阻止して生殺しの様な状態だったはずだ」
「治しているつもりが…苦しめていたってこと・・・そんな・・・」
「無闇に力を使うと、例え神に選ばれた力とて人を殺しかねないと言う事だ。…これをやろう」
怖気付くヒカリに、ルティヤはペンダントを渡した。
銀細工の土台に光を反射して虹色に輝く透明な鉱石がはめ込まれている物だ。
「古代の魔女があらゆる知識を閉じ込めたと云われる代物だ。かつて、私の知り合いの医者がそれにまじないを掛けて人を救っていたんだ」
それを語るルティヤの目がいつもと少し違う色を帯びているのが気になったのだが、それもつかの間、ヒカリがペンダントを握ると一瞬で多くの知識が頭の中に流れてくる。
「・・・どうだ?出来るか」
ヒカリはソムヌスの額に手のひらを当てると、意識を集中させる。
数秒、2人の身体が光で包まれるとソムヌスがゆっくりと目を覚ました。
「ソムヌス様!!─よかった!!」
思わず飛び跳ねたヒカリが涙を零す。
「・・・よかったな」
「ルティヤありがとう!ああ、待って、ソムヌス様に今お話しを・・・」
ルティヤはそれを見届けると部屋を出ていく。
ヒカリが不思議に思いながらも呆然とそれを見送った。
「わっ・・・」
「ヒカリ!!」
すると突然後ろに腕を引かれてベッドに尻餅をついたヒカリをソムヌスが強く抱き締める。
ヒカリは何か声をかけようとしたが、やめた。
力強く回されている腕に微かな震え、背中で感じる怯えを汲み取ったからだ。
その小一時間後に、ギルガメッシュが少し遠くから医師を連れて戻ってくる。
ヒカリはその場を一度任せるとルティヤを探しに外へ出た。