FF15
□私と貴方と
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「・・・ん・・・」
「お気付きか」
「ソム──え、貴方は??」
ヒカリは目覚めると、先までいた宿とは違う部屋にいることに気がつく。傍らに立つ人物に思わず「ソムヌス様」と声を掛けそうになったが、それが違う事と部屋に他に人がいない事を警戒した。
「ほう。流石は彼の伴侶という事か。他の者は皆、私を己が主と間違えて声を掛けてきたのだが」
そう。それほどこの人物の顔がソムヌスに似ているのだとヒカリは頷いてしまった。
どこか昔見た事のあるソムヌスと、瓜二つに近い容姿である。
長い髪を下げて縛ってはいるが、髪の色も瞳の色もそのまま同じ様で、近くにいて不思議な感じだ。
「あの、それで・・・えっと・・・」
「ルティヤだ。」
「え?あ、お名前…ですね…ルティヤ、さん…」
「・・・」
自分が言いたかったのは「何故、部屋で見ず知らずの方と二人きりなのか」という事なのだとヒカリは思ったが、雰囲気がぎこち無くて黙ってしまう。
ドアをノックする音にヒカリは返事をした。
入ってきたのはギルガメッシュだった。
「おお、ヒカリ様…目覚められて良かった。お怪我は??」
「ギルガメッシュ!!ええ、もう大丈夫です。あの時シガイに急に力任せで持ち上げられて気絶してしまって・・・」
ヒカリが部屋を出ようとした瞬間、どこからか侵入してきた中型のシガイに捕まえられた事を思い出す。
そして、あの時の瞬間も。
「それより、ソムヌス様は!?ご無事なの!?」
「・・・それが、まだお目覚めになられず」
「そんな!!ソムヌス様の所へ連れて行って!!」
ギルガメッシュの後に続いて別室へと移動をする。
何故かルティヤも着いてくることに違和感を覚えながらも、ソムヌスの居る部屋へ踏み入れた。
「ソムヌス様…」
ベッドに横たわるソムヌスの傍へ歩む。
「兵たちの命を限りなく守りながらの戦闘でした。また見慣れないシガイとの戦闘に苦戦を強いられ…心身共に限界に近かったのだと思われます」
ギルガメッシュの報告を聞きながら、神凪の力を徐々に掛けていくヒカリ。
体中の傷を癒すのは少し時間がかかるが、治りは可視できるものの、精神はどうなるか不安が残る。
「蛇のシガイに手こずりました。あの時、そこにいるルティヤがヒカリ様を助けてくれたのです」
「貴方が??」
「・・・」
ギルガメッシュの言葉に今一度、ルティヤと名乗る男を見つめるヒカリ。
「それは、危ない所をありがとうございました。…何か御礼を・・・」
「・・・ならば、私を貴女の傍へ置いて頂けるか。私もそろそろどこかへ所属したいと思っていてな。クリスタルの加護を受ける一族の近衛とあればこの先安泰ともいえる」
突然の申し入れに、ヒカリとギルガメッシュは驚いて顔を見合わせる。
「悪いがルティヤ、素性が知れず、ソムヌス様が目覚められる前にその決定はいたし兼ねる。それにいきなりヒカリ様の傍になどと・・・悪いが信用が持てないのだが」
ギルガメッシュはヒカリの動向を察して、遠回しに断りの言葉を重ねていく。
しかし、それをものともしない様にルティヤは言葉を発する。
「先も言ったが、私はシガイと野獣の両方を狩っている者だ。その経験はご覧いただけただろう。そこに横たわるルシスの領主息子とそのしもべのギルガメッシュ殿が太刀打ちできないシガイを私が倒してみせたのだ。あなたがたに危害を加えるつもりならあのまま傍らで笑ってみていただろう」
その強気な発言に、ギルガメッシュは目を伏せて考えた。
「ヒカリ様はどのようにお考えでしょうか・・・」
「私は・・・」
ヒカリは少し悩んだ。
もしこの状況でまたシガイが出てきたら、負傷した兵やギルガメッシュにどれだけ負担がかかるのだろう。
ましてや武術を実践で満足にできない自分や、宿泊先の民も抱えての戦闘はかなり厳しいものになる。
だが、素性がよく知れない人物を入れるだけでその責任や不安をソムヌスが1番嫌うかもしれないとも考えてた。
「…ソムヌス様が快復するまでは良いお返事が差し上げられません。ただ、それまでの間は私の責任で近衛として雇いましょう。ワガママではあるのですが、どうか一時だけでもルティヤさんの力を貸して欲しいのです。ソムヌス様が目覚められたら私からも貴方の従軍を申し入れ致しますから…」
「という事だ。ギルガメッシュ殿、よろしいか??」
「・・・承知した」
ルティヤは2人の雰囲気が肯定なのを察すると、部屋を出ていった。
「ギルガメッシュ、ごめんなさい。今の兵たちやソムヌス様、貴方の事を考えるとルティヤさんの力は借りていた方がいいと思ったの…」
「謝らないでください。それは私にも痛い程分かりきっていた事です」
ギルガメッシュは先のシガイとルティヤの戦闘を思い出す。
あの高い位置からの攻撃と主人と自分ですら歯の立たなかったシガイを一撃で仕留めるその腕は確かなものだった。
「それにしても・・・ルティヤさんって、とってもソムヌス様にそっくりなのね…起きた時うっかり話しかけてしまったわ。びっくりした・・・」
「兵たちの噂にもなっていましたな。私にはよく分かりませんが・・・」
戦闘後、ソムヌスと間違えてその戦いぶりを賞賛する兵達が集まる程だった。
「とにかく今は彼の力を借りるしかないですね・・・。私もソムヌス様の快復に力を尽くします」
その夜からヒカリは可能な限りソムヌスの傍へ付くようにしていった。
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その夜、空に浮かぶ星々が輝きを増している気がした。
こんな事は茶番に過ぎなかった。
ただの退屈しのぎと言う訳でもなかったが、こうも人間から絶望を生み出すのが簡単なのだとそう思った。
もう少しその茶番に興じてみるかと、目を閉じる。
この星を浄化しよう。
穢れた世界を無に返そう。
そしてもう一度、あの時のように2人で世界を生み出し育もう。
人間の穢れを目の当たりにすればきっと自分の元へ還ってくる。
その時、全てを赦し、また無の時を過ごそう・・・