海賊の部屋
□空の色
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「なぁ、空を飛ぶってどんな感じだ?」
俺が自室で書類を片付けていると、随分と前に「仕事が終わって暇だから」などという理由で部屋に転がりこんできたエースが、俺に尋ねた。
その質問はよくされる。まぁ、珍しいし普通は気になるだろうよい。
「ん…なんつーか…」
いつも正直に答えると、みんなに不思議そうな顔をされるから、口にするのを少し迷う。
でもま、いっか。エースに嘘つきたくねェし。
「空と一つになって、空になる感じ」
椅子に座っているため、背を向けたまま答えると、エースは一人納得したような声で「そっかぁ…」と呟いて
「だからかなぁ」
「何だよい?」
「んー…マルコが空を飛んでいくたびに、寂しくなるのが」
「はぁ?」
俺が間抜けな声を出して振り向くと、エースは馬鹿にされたと感じたのか
「だって、だってよ!アンタが飛んでいくたびに、なんか胸が痛くなるんだ!でも、アンタが帰ってくると胸の痛みがとれるんだ!変だろ!?それが気になって…アンタも関係してるから、だから聞いたんだ」
最初は威勢良く話していたのに、語尾はどんどん小さくなった。
流石に恥ずかしくなったのだろうよい。
「…んだよ、」
じぃーっと見ていたら、エースに睨まれた。
「いや、お前もそんなこと思うンだな…って」
「うっせ!」
「いてっ!」
素直に答えたら、恥ずかしくなったのかわざわざ足の脛を蹴られた。いってぇな…。
「っ…」
あぁでも、ベッドに寝転がってそんな自分を隠そうとしてるエースが可愛くて、痛みなんかどうでもよくなっちまったよい。
「…昔な、親父に『テメェは青空そのものだ』って言われたんだがねい」
「…」
「お前も空だな、エース」
すると、静かに俺の話しを聞いていたエースがゆっくりと起き上がり
「なんでだよ…?」
呆れた様な表情で俺を見た。
「お前は、あの夕焼けと同じ色してる。だからお前も空そのものだよい」
部屋の小窓から見える夕焼けを指さして、告げる。
―本当にそう思うんだよい。お前は夕焼けみたいに綺麗なんだ。
そう呟くと、枕が顔面に向かって投げられる。
ひょい、と避けると
「っ…こっち見んな…!」
顔を真っ赤にしているエース。
(やっぱり、お前は夕焼けそのものだよい)
心の中で言いながら、俺は赤みを増す『夕焼け』を抱きしめた。
【君と僕は空の欠片。一緒にいれば、空になれるね】