海賊の部屋

□そんなこと
1ページ/2ページ

少し体調が優れなくてお医者様を訪ねてみたら、とても嬉しい知らせだった。



「ねぇ、あなた。あなたに知らせなくちゃいけないことがあるの」

少しウキウキした声で話しかけると、彼は子どもみたいにきょとんとした表情で「なんだ?」って振り返った。
そんな仕草も可愛らしいと思いながら、そっと彼の近くに歩み寄る。

「あなたとの子どもを授かったのよ」

笑顔でそう告げると、彼はしばらくの間ポカンと口を開いたまま私を凝視していた。
嬉しくないのかしら、と少し不安になった時に

「・・・・ぃやったあああああ!!」

びっくりする位の大声で、彼はバンザイをしてその場でぴょんぴょん飛び跳ね始めた。
それからぐるっと私の方に向き直って

「それ、本当だな!ドッキリとかじゃないよな!」

「ええ。私も今日お医者様に知らされたの。おめでたですって」

「おお〜・・・っ!でかしたぞ、ルージュ!そうか・・・俺たちの子どもか・・・!」

ゆっくりと優しく、私のお腹を彼の大きな男らしい手が撫でる。
その手があまりにも愛しそうに撫でるから、少し泣きそうになってしまう。
誤魔化すように

「あなたがお父さんなんて、不思議な感じがしますね。ロジャー」

「なっ・・・!?そ、そんなことはないぞ!」

「ふふふっ」

「ったく・・・・ハハッ」

暫く向かい合って笑いあった。
それから不意に彼は真面目な顔つきになって、もう一度私のお腹を撫でる。

「・・・俺の子だってなれば、きっと政府や民間の奴らはこの子を野放しにゃあしねェだろうな・・・」

「・・・」

ポツリと零した彼の言葉に、私は急に現実に引き戻された感覚になった。
それもそうだ。彼は世界を脅かす大海賊の船長なのだから。
その子どもは、もっとも狙いやすい。

それでも

「私は、「元気に産まれてこいよー!男子なら強く、女子ならルージュのようになるんだぞ」・・・え?」

私の言葉と重なって聞こえた彼の言葉に、今度は私がポカンと口を開いた。
そんな私を見て、彼は「プッ」とふきだすと私の髪を豪快に撫でて

「なんだその顔は。俺が産むなって言うと思ったのか?」

いつもみたいに子どものような無邪気な笑みを浮かべる。

「だ、だって・・・さっき・・・」

「いや、な。そういう可能性もあるよなって意味だ。産むな、なんてこれっっっぽっちも思っちゃいねェよ!」

彼の言葉を聴いたら、安心からかポロッと私の目から涙が零れた。

「えっ!ど、どうしたルージュ!どこか痛いのか!?もしかして腹か!?」

私が泣いてしまったから彼がワタワタと騒ぎ出した。
そんな彼がたまらなく愛しくて、ぎゅっと彼に抱きつく。

「・・・あなた。私、あなたの子どもを授かって幸せです」

「・・・そう、か」

気遣うように優しく抱きしめられて、もっと泣いてしまいそうになる。

「・・・アンか、エース」

「えっ?」

耳元で彼がボソッと言った言葉を聞き返すと、ガバッと私の肩をつかんで顔を見つめると

「子どもの名前!女ならアン、男ならエースで決まりだ!」

瞳をキラキラさせて私に告げる。
あまりの突飛さに目を瞬かせていると、彼はニコニコしながら

「どっちが産まれても嬉しいからな。産まれてくる子どもの名前は必要だろう?」

楽しそうに私に尋ねた。
結局なんで名前の話に飛んだのかよくわからなかったけど、彼が楽しそうだったから

「・・・そうね」

と笑った。
暫くお互いに黙っていたけど、彼が真っ直ぐに私を見据えながら

「ルージュ、いつも俺を愛してくれてありがとうな」

たくさんの愛が詰まった言葉をかける。

(ああ、もう。そんな風に言われちゃ、私・・・)

「ん?・・・ハハッ!なんだ、ルージュ。また泣いてるのか?」

(やっぱり、泣いちゃったじゃない。)

「あなたが・・・が、柄にもないこと、言うからよ・・・っ」

少しだけ責めるように言うと、彼は「違いねェ」と笑うと、私を抱き寄せた。

私も彼に伝えたくて、服をキュッと握り締めてから、彼を見上げて言う。

「・・・ロジャー。いつも私にたくさんの愛をくれて、ありがとう」


後日、彼は海軍本部に捕まった。なんでも自主したらしい。
私はその時になって初めて、彼が名前を決めた理由を悟った。


【私たちを守るからだって、そんなこと知っているけど哀しいわ】


次、あとがきという名の言い訳
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ