小説(いただいた小説もこちら)
□☆さよならなんて言わないで。
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大切だけど
大切だから
きっと僕は弱虫で
さよならなんて言わないで。
――人も動物もみんなみんな、いつかは土に還るんだよ。
昔、物知りな動物が導きだした終着点。
それを後世の人間たちは「死」と名付け。
人々は畏怖をこめてか、それを口にするのをはばかる。
けれど、思うのだ。
そんなに「死」は恐ろしいものなのか。
「死」を常に背負う立場上、身近で、確かに恐怖ではあるのだが。それでも、「死」は時に美化され、天国や楽園と称される。
果たして人間は、「死」を定義してくれていない。だから困るのに。
だから、アナタがいなくなると困るのに。
「ユウ、また怪我したさ?」
「あ?」
「血の臭いがする」
「かすっただけだ」
「…………」
ラビは珍しく顔をしかめた。
神田は任務後で気がたっている上に、彼の反応にさらに機嫌を悪くする。
「…んだよ」
「あ、いや……」
「テメェには関係ねぇだろ。どうせすぐ治る」
「そうじゃ、なくてさ、ユウ」
「なんなんだよ。用がないんだったら俺は行くぞ」
「っ…」
ラビは何かを言い差して口籠もる。その表情は決して明るくない。
気の短い神田の逆鱗に触れるには充分すぎる。
神田は痺れをきらして声を荒げた。
「んなんだよテメェはさっきから! もういい、俺はテメェと違って忙しいんだ。じゃあな!」
「! っ…待ってユウ!!」
「だからっ…!?」
「待って、…ごめん、あのね」
神田の腕を掴んで振り向かせたラビは、どうしてか今にも泣きだしそうで。予想外の事態にさしもの神田も絶句してしまった。
ラビは神田の腕を掴んだままうなだれる。
ラビは何か言いだすのを迷っているような、神田にしてみれば本当に困る、奇妙な沈黙をおとした。
いくらかそうして、やっとラビは小さく言葉を紡いだ。
「ユウ、………死ぬな」
「ラビ…?」
普段、自分が怒るからと彼はそのことに触れなかった。
なのに突然、いったいどうしたというのか。
「ユウ、死なないで」
「な、んなんだよ」
「…うん、ごめんね」
人の願いなんて、世界に比べたら小さすぎて。
どんなに相手を想ったとしても、叶わないと、歴史を記録する立場の自分は誰より知っている。
なのに、どうしてなのだろう。
願わずには、信じないはずの神に祈らずにはいられない。
歴史の中で自分たちは、一瞬すぎて、紙の上にすら記録されることはなくて。
それがとても哀しいと思ったから、なんて彼には言えない。怒りっぽい彼には、とても。
「死なないでよ、ユウ」
「…なあ、どうしたんだよ」
「……………」
ねぇお願い、今は何も訊かないで。
答えたら、きっと泣いてしまうから。
自分たちの立場なんて忘れて、今すぐアナタを世界から奪って、遠くへ逃げたくなってしまうだろうから。
愛しき人よ、
弱い僕でごめんなさい
自分を制御するのも
ままならないくらい、
きっと僕は弱虫で
だから口にしたくない
願わくば
その時が訪れないように
たったそれだけ
祈っていてもいいですか?
End...