小説(いただいた小説もこちら)

□◇はかなき思い
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俺は、あの日から誓ったんだ・・・


一生あの人についていくと。



ここは、徳川陣営のアジト。薩長同盟が結ばれてまもなく、新撰組は賊扱いされ幾多の隊士が殺された。内部での諍いから隊士の数も減り、完全に行き場を失った俺たちは地方に住む徳川派を集め新しい新撰組を立ち上げたのだった。

そして、今後の話をしにここ、蝦夷の徳川陣営の頭となっている榎本を訪ねて今に至っている。




「・・・薩長に降伏するだと?」

土方は怒りを含んだ声色で榎本に聞き返した。

「そうだ。もぅこれ以上、人を傷つけるのはごめんでね。」

「ふざけるなっ!」

ダンッと土方は机を叩いた。
「今、ここで薩長どもに降伏しちまったら、死んでいった隊士達はどうなるんだよ・・・あの人は・・・近藤さんはどうなるんだっ。!!」

近藤というのは、新撰組の局長、近藤勇のことである。彼は土方の親友であり、よき上司であり・・・最愛の人であった。

「・・・近藤さんか。彼はすばらしぃ方だったと聞く。」

榎本はあくまで涼しく答える。

「あぁ。近藤さんは、いつも新撰組のことを最優先に考えていた人だった。・・・あの人の意志を俺は受け継ぎてぇんだよ。」

「!」

その真っすぐで強固とした意志をもった瞳が榎本を捕らえた。
武士のなかの武士。まったくその言葉が似合う奴だと思った。
しかし、彼はその時気付いてしまった。土方の瞳の奥で悲しそうに揺れる思いを。

「・・・近藤さんのため、か。」

「!・・・あぁ。俺は局長としてのあいつの意志を受け継いで、新撰組をささえ・・・」

「うそだね。君の場合局長だからと言う理由ではないのだろう?」

「なにがいいたい?・・・!」

ドサッ!!


榎本はその場に土方を押し倒した。

「何しやがる!!」

土方は力一杯榎本をにらみつけた。しかし、彼は動じない。

「私ではいけないでしょうか?」

「は?」

「私が近藤さんのかわりになります。そうすれば、君を苦しませるようなことはしません。」

そういって、榎本は土方の両手を片手で押さえ、羽織っているものを一枚ずつ脱がせはじめた。

「・・・っく、や、やめろっ!」

精一杯抵抗をするが、土方を押さえ付ける手はびくともしない。

こいつ・・・細いくせしてっ!!


「私は君の苦しむ姿がみたくなぃ!だから、私を近藤さんの代わりに!」

「っつ・・・おまえじゃ、あのっ人の代わりにはなれねぇ!」

「!」


「同じ指導者の立場だったから近藤さんの面影をかさねていたが、今日話してわかったんだ。おまえは近藤さんとはちがうっ!」

そういうと、スキのできた榎本をつきとばして、部屋をさっていった。



―――

「うっ・・・グスっ・・・」

逃げてきた土方は部屋の隅で一つの小さなきんちゃく袋をとりだし、みつめながら泣いていた。

「・・・勝ちゃん。なんで、なんで死んじまったんだよ。勝ちゃんっ!」

土方は、きんちゃく袋を強く、強くにぎりしめた。




あんたは、もう二度と俺のもとへ戻ってはこない。


ならば・・・





俺は、俺からあんたのもとへむかいます。



暗い倉庫に日が射した気がした。







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