屍界に咲いた黒い花
□過去が笑う
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『ねぇ、向こうの空、すっごい綺麗』
『ほんとだ、真赤だね
祈騎知ってた? こーゆー夕焼けって、明日晴天なんだよ』
『そうなんだ、染暮は物知りだね』
『…ねぇ祈騎』
『うん?』
『俺と…結婚──してみない?』
──「夢…か」
布団から這い起きて、小さく息を吐く
一人には広過ぎる部屋の戸を開けて、外の空気を大きく吸い込んだ
「…馬鹿みたい…今更……」
日の光が、閉じた瞼越しにも薄橙に眩しかった
「──染暮──…」
「祈騎殿」
「あっれぇ、時雨、どしたの」
幾つも連なり建てられた高い塀の屋根に寝転んでいた祈騎は、聞き慣れた声に反応して飛び起きた
如月時雨は、四番隊に所属し、同時に零番隊の副隊長である
包帯で覆われ、右の真黒い瞳だけが覗いている彼の顔を見た事のある者は、誰も居なかった
そんな時雨を、祈騎は誰よりも信頼していたし、祈騎に対する時雨の忠誠も絶対的な物だった
「山本総隊長が呼んでいる」
「え、何の用で?」
「零番隊の朝霧と如月を此処に、との事で」
「零番隊ね、じゃ、すぐ行こう」
立ち上がって、埃を一払い
軽く跳んで、屋根から地面へと足を着ける
時雨もそれに続き、祈騎と並んで歩き出す