06/24の日記

11:39
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それを修繕するのは、間違いなくシオンの部下達。自分で働くのには有無を言わせないくせに、自分以外が働くのには難癖をつけたがる。
シオンに魔法が放てるわけもなかった。
逡巡の末、シオンは溜め息を吐いた。

「…寝ればいいんだろ」
「そのとーり」

にんまりと笑って立ち上がったライナは、動かなくなったシオンをひょいと担ぎ上げた。そのままベッドにぽすんと降ろすなり、あっさりと魔法を解いた。
シオンはきょとん、とまばたきをくりかえしてから、身の自由を確認するように腕を動かした。

「やけにあっさり放してくれるな」
「魔法はな」
「?どういうい…」

シオンが問いかけようとした時、ライナの影がシオンに重なった。
頬に、柔らかい感触。ちゅ、と音を立てて、しかしすぐに離れた唇はまたも卑しい湾曲を描いていた。

「俺はそう簡単にゃ放さねえぞ」
「?!」

かあぁと一気に朱に染まったシオンは状況を理解したのか、再び慌てふためき始めた。
そんなことお構いなしにとライナがシオンを完全に寝かせると、それまで「あー」だの「うー」だのしか言葉を発しなかったシオンの口から、やっと言葉らしい言葉が叫ばばれた。

「ね、寝かせてくれるんじゃなかったのか!」
「してからな」
「な、何をとは聞かないけど…っちょ!」

ごそごそと服を脱がせるライナに、シオンはもう諦めたようで。彼に跳ねた髪を撫でられ、ライナはぽそりと落とした。

「怒ってたのはマジだからな」

素っ気なくて、ぶっきらぼうに。それでも伝わった恋人の配慮に、シオンは先程とは違うように顔を歪めた。
そして小さく漏らしたのは、弱音でも謝罪でもなくて。

「…ありがと」

これが終わったらライナと寝よう。腕の痛みはあれど、たまには弱音を吐くのもいいかな。
感謝の意を込めて、シオンはライナの髪に口付けた。

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10:24

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「頭がクラクラする」

そう言ったシオンが最早王の制止すら聞かなくなった部下達に仮眠室に運ばれたのは、丁度2時間前の事らしかった。
聞いた話によると、シオンはここ4日、飯も睡眠もろくにとらず資料をせっせと片付けていたらしい。仕事鬼のシオンにとっては4日なんて少ない方なのであろうが(なんせやる時は一週間は続けてしまう男だ)、常人にとってみれば心配でたまらなかったのだろう。
常人に加え超善人(フロワードを除く)であるシオンの部下達は、シオンがようやく漏らした弱音を皮切りに、シオンをほぼ無理やり仮眠室に押し込めたというわけなのだが。

「何でお前寝てねえんだよ」

カルネにシオンの行方を伝えられたライナが天井裏から仮眠室に潜り込んだところ、シオンはドアの鍵と格闘していた。
カチャカチャ、ガチガチ。
なんとも金属質な訪れてが止んだのと同時、王様はくるりと振り向いた。

「ああ、ライナじゃないか。おかえり」
「お帰りじゃなくってな、なんで寝てねえんだって聞いてるんだよ」
「だってまだ仕事が」
「例えばどんな」
「コンフォート家が謁見に来る件についての会議資料に目を通して、それから街への物資の輸送状況の確認とか…」
「…それいつまでにやんの」
「期限は…来週、だったかな」
「寝ろ!!」
「えぇ、」

まだ残っている仕事、とやらも指折り数え出したシオンだが、そのどれも期限はまだ随分と先だった。ならばとライナが彼の腕をぐいと引き上げると明らか不満そうな声が漏れた。
こんの仕事の鬼…!
なぜだか腹立たしく、腕を掴む手が無意識に力む。反射的に顔をぴくりと歪めたシオンに気付き、ライナははっとした。
…あれ、俺、怒ってる?
手の力はそのままに、少しだけ青いシオンの顔を窺う。疲れてる。また無意識に力が入った。無論シオンは更に頬を引きつらせる。

「ら、ライナ、もしかしなくても怒ってる…か?」

流石に感じたのか、シオンが恐る恐るといった様で首を傾げた。その問いに返すように腕を解放してやると、シオンはとっさに掴まれた箇所を擦り始めた。
痛かったんだな。と、ちょっぴり罪悪感。しかしそれよりも煮出ち始めた少々の怒りがライナを動かした。

「怒ってる」
「結構本気みたいだけど、な、何で怒るんだよ。カルシウム足りてないとか…」
「今朝飲んだー」
「…じゃあ睡眠不足とか」

睡眠不足?ライナははた、とする。最後に寝たのはいつだっけ?今朝起きたのは8時で、昨日寝たのは12時。
8時間しか寝てねぇ。

「…そのせいかも」

内心妙な合点のいったライナの呟きに、シオンが「はあ?」と素っ頓狂な声を上げた。

「本当にそうだったのか」
「うん、8時間しか寝てねぇ」
「それはライナには致命的だなあ」

くすくすと笑い出したシオンは、腕を押さえてはいれどいつも通りだ。
ふっと少し落ち着いたライナだったが、睡眠が足りていないと分かればやることはひとつである。

「そんじゃ俺寝るわ」
「あ、やっぱりね」

おかしなイライラも消えたライナはひらひらと手を振り、大きな大きなベッドに潜り込んだ。
ふかふか、するする。流石王家のベッドだ。
ライナが心地良さを存分に堪能し、ようやく眠りに落ちようとした、その時。
カチャカチャ、ガチガチ。
再び音が鳴り出した。ドアノブを必死に回したり、鍵穴をいじるような音だ。
そんなんして入れたらピッキングという技術はいらねえのよ王様。
ライナは枕を抱えながら心の中で突っ込んだ。そしてふと、この部屋に来た目的を思い出した。
睡眠不足なのはこの部屋にいるどちらもではなかったか。

「…おいシオン」

聞こえていたのか、聞こえていなかったのか。ドアをどうにかしようとするシオンは微動だにしない。
ほーお、そうまでして寝る気はねえってか。
ライナの中のいじめっ子精神がふつふつと沸き起こる。
だったら無理にでも寝かせてやろうじゃねえか。

「求めるは光陣>>>•」

僅かなきらめきと共に描かれた魔法陣にシオンが目を見開いて振り返った。
だがその瞳に映ったのは華麗なまでの魔法陣と、卑しく笑う親友だけで。
もう遅いっつの。

「ー縛呪、捕縛後収縮」

ライナの静かな呟きに発せられた縄は、瞬く間にシオンに絡みつき、彼を締め上げた。無論、シオンはじたばたともがき出して。

「ま、魔法使うなんて、卑怯だぞ!」
「だったらお前も魔法使えばいいだろ。それには魔法を封じる力はねーんだから」
「う…」

この状況下でシオンが使える魔法といえば稲光くらいだが、室内で使ってしまえば部屋にも損害が発生するだろう。

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