03/05の日記

23:33
「やなやつ、」
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「さぁーいーぞぉー」
「……」
「さいぞーってのー」
「……」
「さーいー」
「っだああああ!!うっせえなてめえは!」

縁側に座っていた才蔵に屋根の上から声をかけ続けて数秒後、やっとのことで才蔵が俺を見上げた。
うわ、怒ってる怒ってる。
立った青筋からして、今にもクナイを投げかねないほど苛立ってる。ま、投げてくれるのは大歓迎だけど。
しかし怒らせるだけじゃ詰まらない。ひょいと地面に飛び降りれば、才蔵が手に何かを持っていることに気づいた。

「団子ォ?」
「…あまったから、食えって」

…あまった、ねえ
屋根の上にいたせいで見えなかった、才蔵から見て右手奥の廊下。そこにどっさりと置かれていたのは、数十本の団子だった。

「なあに、あの女が持ってきたワケ?」
「女…って、伊佐那海か」
「おう」

とすんと隣に座れば、改めて分かる身長差。
ちらりと横目で才蔵を見やってみると、もごもごと口を動かすだけでだんまりだ。
…はっはあ、成る程、俺分かった。
あの巫女が持ってきたもんだから才蔵、断れなかったんだ。で、仕方なしにと黙々と食ってたんだ。へー。
無意識のうちにとんとんと廊下を指先で叩いていた。それは段々と早く音を刻んでいく。
…なーんかイライラしてきた
才蔵を見る。やっぱり無言だ。更にイライラする。面白くねえ。
ちっと舌打ちをかましてから俺はくるりと腰を捻って、才蔵の奥に置いてあった団子のひとつをひょいと取り上げた。

「…貰っちまうぞ?」

無言。反応くらいしろよ!
才蔵はやはり喋らないまま次々に団子を口にする。ああもう面白くねえ!
苛立ちも相まって、俺は思い切り団子を噛み千切った。
ふにゃふにや、ムダに柔らかい。でも、ほんのり甘くて、畜生うまい。
思わず無言になって咀嚼しているとー
不意に、頭にぽんと軽い衝撃。
それが才蔵に叩かれたのだと気付けば、俺は勢い良く顔を上げて叫ぼうとしていた。
この野郎、いきなり何だよ、と。
だが、

「美味そうじゃねえか、そんなに美味いならいっそ全部くれてやるよ」

串をくわえた才蔵は、むっちゃくちゃ楽しそうに笑ってた。
全部くれてやるとか言いながら、また新しい団子を摘んで。
でもそれは才蔵のじゃなく、俺の口の前にずんと突き出されて。

「…しょーがねえから食ってやるよ」

かああと頭が熱くなった。わ、わけわかんねえ。
才蔵に突き出された団子をぶんと奪い取ると、顔を背けてからそれを口に突っ込んだ。
畜生ちくしょう、何なんだよ。
訳のわからない熱さに歯噛みすると、団子が形を変えて口いっぱいに広がる。やっぱ、甘い、しうまい。
こんな状況が、何故か血みどろで戦うより何よりも高い高揚感を生み出していた。
妙に煩い鼓動を確かに感じて、俺はちっさく思った。
そのとき思わずぽつりと落とした呟きを聞いてー才蔵がちっさく笑ったのは、言うまでもない。

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