amorfrater

□其の陸.CDショップで剣道部員とマネージャー。
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取り敢えず新譜だけは確認しておこうかな……
店に入ったすぐ其処に、目的とする場所はあった。

「お、」

そしてその中に、欲するCDも発見。
洋楽チャート2位かー……
別にファンクラブに入るほど熱狂的なファンではないものの、同じアーティストのCDはよく聴く。
そういうアーティストがランキングに入っていたりすると、僅かに嬉しいのだ。
手にしてみると、やはり洋楽。日本語は貼ってあるラベルシール程度だけ。裏を返し、曲目も確認した。
どうすっかな……
欲しい。けどどうしても欲しいわけでもない。でも好きな曲入ってんだよなあ……
数秒の葛藤。
集中に集中した、その間だった。

「あ、ラルドのCD見つけた」

隣に並んだ少女の呟き。静かな周りを考慮してか、かなり小さく。
それでも反射的に、其方に顔を向けていた。
すると合わさった視線。必然的に、俺が見下ろす態勢にはなったものの。

「あ」

並んだ少女を見た。かち合った視線にどちらともなく声が洩れた。
彼女は、彼女は。

「白夜くん?」

我らが剣道部マネージャー。彼女はいつも俺達の世話をしてくれる子ではないか。

「沙奈」

天野沙奈。
クラスメイト、同班、同部活。恐らく、女の中で一番の友達。
彼女は名前を呼ばれると、にぱっと可愛らしく笑った。



店内で喋るのも何だから、と店の隣のカフェに話をすることにした。
あまり遠くに行くと銀兄が迷子になりそうだから、と近場にしてもらったのだ。

「びっくりしたー、いつもと雰囲気違ったから最初分からなかったよ」
「まあ、服も違うしな」
「へへ、かっこいいよ」
「……そう、か?有難う」

純粋に褒められると、気恥ずかしい。
…そういえば銀兄も朝、褒めてはくれたんだっけ…
“今日お前かっこいーじゃん。俺の彼氏にしてやりたーい”
……あれって褒め言葉、だよな
あの時は恐怖心ばかりで何も感じなかったが、思い出すとそれもまた気恥ずかしい。
ここ最近何度吐いてるであろう溜め息を沙奈に気付かれない程度に吐いた。

「それで、今日はお兄さん達と来てるんだってね?」
「ああ、姉貴と弟もいるけどな」
「へえ……あ、のさ、白夜くんより5つくらい上のお兄さんっていない?」
「5つ?」

彼女の質問に該当するのは、銀兄か。
何故そんなことを聞くのか疑問に思ったが、それはまた明日の学校で聞くことにした。

「いるっちゃいるな」
「本当?会ってみたいなあ……」

俺は会わせたくはないけどな。
頬杖をつき、あの異色家族を思い浮かべた。
頭によぎった殆どの兄弟は絶対人に会わせられない人達ばかり。
唯一白兄なら良いだろう。まあ、かっこいいし、寧ろ見せたいというか……
弘兄は、金髪の時点でちょっと駄目だ。ホストというのは青少年に会わせるものじゃない。
亜科姉のオタクっぷりは同類なら大歓迎だろうが、沙奈はあくまで常人だ。
雅は可愛いものの、ツンデレを発揮されても困る。
銀兄は、最も会わせられないランキング、堂々の一位。
早めに話切り上げた方がいいかな……

「白夜くん?」

沙奈の声で現実に引き戻される。しまった、あまりの呆れ様に集中し過ぎた。

「ああ、悪い。ちょっと考えてた」
「ええと……そうじゃなくて、えっと……」

もごもごと口ごもる。どうかしたんだろうか?
首を捻ると、彼女はすっと俺の背後を指差す。
俺が振り返る前に、髪がぐしゃりと撫でられた。

「おい、CDショップにいるんじゃなかったのかよ。探したぞオラ」
「っぎ……」

銀兄。一番会わせたくなかった馬鹿兄貴が、いた。それはそれは不機嫌そうな。
さあっと青くなる俺とは対照的に、何故か沙奈は頬を上気させている。
立ち上がらんばかりの勢いで、ぺこりと頭を下げた。

「は、初めまして!私、天野沙奈って言います!」

きょとん。いつも眠たそうな眼で沙奈を見つめた銀兄は、あろうことか彼女にずいと近寄った。

「誰、君。白夜の彼女さん?」
「かっ……」
「ち、違いますよ!白夜くんのか、彼女じゃなくて、マネージャーです!」
「…あ、剣道の?」
「はいっ」

銀兄から出た“彼女”という単語に反応したのは若干2名。
俺は固まってしまったが、沙奈の弁解でなんとか納得したらしい。銀兄も頷いた。
……こんな可愛い奴となんか付き合えるかよ
ちらりと見やった沙奈は真っ赤で。何に照れてるんだか知らないけれど。
銀兄はなーんだ違うのか、と特に表す感情も無く肩を竦めた。



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