廃屋の少年は夢を見る
□6話.殺意
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「神華!」
光が立ち上がれたのは、神華が綾乃を殴った後だった。
止めようとは思わなかったー寧ろ自分が殴ろうとすら思ったーものの、綾乃の安否が気になった。
もろに神華の拳を喰らったのだ。しかも、顔面に。
「あーすっきりした。光も殴りたかったくせに」
「でも……それより、大丈夫なのか?」
倒れこんだ綾乃は、動かない。気絶しているのか。
「死にはしないけど、頭やったから。気絶してるんじゃない?」
光と同じ推測を口にした神華は悪びれもせず。
気絶したのだと分かっていても、綾乃を助ける術を光は知らない。ぐ、と唇を噛みしめる。
近寄ることすら出来ない光の横を、すっと亜沙が通った。
「亜沙?」
「俺が保健室に連れていく。上手い様に弁解しておくから」
「あり、殴ったことには怒らないの?」
神華の軽い呼びかけに振り向きもせず、亜沙は綾乃を肩に担いだ。
「俺もこいつは気に喰わないからな。代わりに殴ってくれて有難うとも言いたいくらいだ」
「うわ、ひっどーい」
「嘘を吐くよりましだ」
彼が扉の奥に消えた。錆びた音が消え、静寂が訪れる。
怯えたのか一向に固まったままの美咲を一瞥しながら、神華に話し掛けた。
「神華、あいつ」
「保健室。ちっちゃい学校の病院みたいなとこ」
「それもだけど、あいつ、誰なんだ?」
「前から光にちょこちょこ絡んできてた。多分好きなんじゃない?光のこと」
広げた拳を振る神華は、あくまで軽い。
だから光もそうなのかと流してしまったのだ。
亜沙は結局、その後の授業には来なかった。戻って来た時に聞いたのは「先生がいなかったから手当てをしてきた」というだけ。
しかし、翌日のことだ。
志倉木グループ時期後継ぎ、志倉木綾乃が死体となって、校庭の隅から発見された。
早朝、見るも無残な夥しい数の刺し傷をつけられた物言わぬ肉塊となって。
6話終。