廃屋の少年は夢を見る

□1話.廃屋の少年は夢を見る
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「大事なもの?」
「無かったら困るーってもの」
「……そうかもしれない」

100日もの間肌身離さず手にしていた剣。
鈍い銀を反射する刃は僅かに諸刃となっていたーコンクリートを削ったせいかー。
特に変わった装飾もない、地味な剣。
しかし無かったら困るー素直に頷くことができた。

「なら、ちゃんとそれは持ってなきゃね」
「ああ」
「……それじゃあ光、ちょっとお願いがあります」
「お願い?」

さっきからよく聞き返してるな。
思う間に少女はこほんと咳払いをし、光を見上げ、力強い瞳をにっと笑みに細めた。

「光は光を知らない。でも私は光を知ってる」
「ああ」
「ならさ、私を利用してみない?教えてあげるから、分かんないことぜーんぶ」

少女を利用することが、記憶を取り戻すことになるのだろうか。
もしそうなのだとしたらー……

「……利用、していいのか?」
「てゆーかしてください。それで思い出せるならいくらでも」

今、光が手にしている僅かな記憶と手掛かりは
少しの言語と感情、記憶のあるうちに生きてきた中での経験、握り締めていた剣、
樫奈神華という“藤田光”を知る少女と、
そして、今朝見た神華が殺されたあの夢。
これらが何を意味しているのか。
少女を利用することによって全てが繋がるのであれば。

「……利用させてくれるか、俺のために、お前を」
「使って使って。私は光に会えただけで嬉しいんだから」

光は少女を利用することにした。
自らのために、自らの夢で殺された少女を。



1話終。
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