amorfrater

□其の肆.帰ってきた社長とぐうたら兄貴。
3ページ/3ページ


「そう拗ねるな」

だから違うって言ってんだろ。
久し振りの再開だと浮かれていた先程と心中は一変。妙に腹が立ってきた。
もう返すのも面倒になってきたので、俺は黙ったまま顔を背ける。
白兄は肩を竦め、手を離した。

「……昔と変わらず分かり易いな」
「何がだよ……っわ?!」

離されたと思った腕が、体に絡みついてきた。
何だ、何だ?!
急に密着した体。急に近くなった距離。急に体温が上昇する。
剣道部に所属している俺と一日中室内で研究研究の兄貴を比べたら、俺の方が腕力はあるに決まっているはずなのに。
だから簡単に離そうと思えば離せるはずなのに。

「…子供扱いが嫌なんだな。顔に書いてある」

耳元に響く白兄の声が気持ち良くて、出来なかった。
というか、何で分かるかな……
あっさり読まれた心の内。それでも白兄は馬鹿にするでもなく、抱きしめてくれた。
これも充分子供扱いなような気はするけど……まあ、悪くないかな、なんて思ったりする。
素直に頷いて、きゅうと白兄の服を掴んだ。
いや、正確には掴もうとした、だ。



「何してんの、兄貴」

誰かが俺の腕を掴んだから。
誰かー否、もうそれは嫌というほど耳に焼き付いた声だから、瞬間で分かったのだけれどーを、そっと見上げた。
先には、いつものへらへら笑いじゃない、どこか怖いと思えるくらいの銀兄がいた。

「に、さん…?バイトは?」
「店長が体調崩したって、臨時休業。コンビニの方はシフト足りてるからいいって言われてさ」
「それはお疲れ様、だな」
「……で、兄貴は何してんのって」

聞いてんだよ。
声が、低かった。思わず震えた俺の肩を白兄が抱いてくれた。
安心した俺を銀兄は見逃さなかった。きりりと、腕が締められる。

「に、兄さん、痛いって……」
「うるさい」

離してくれなかった。それどころか、力がまた増した。
…違う、いつもの銀兄じゃない
痛みのせいなのか別のものなのか、うっすら滲んだ視界を白兄に移した。

「離してやったらどうだ?いくらお前の性分でも弟にまで手荒くしてやらなくても」
「ならあんたも離せよ」
「白夜は案外嫌がってないぞ?」

なんでこのふたりは睨みあってるんだろう?俺はふたりをそっと見上げた。
銀兄の鋭いーいつもと違う眠そうな目じゃないそれが、俺を捉えた。
完全な恐怖が俺を同時に襲う。
……なんか、もう、泣きそうだ。もう、泣きたい。
銀兄に掴まれていない手で、ぎゅうと白兄の服を掴んだ。

「な?」

聞いただけで、白兄が笑っているのが分かった。
それとは真逆で、銀兄の声色は酷く透明で。

「……そう」

短く言うと、手が自由になった。じんじんと痛む。
慌てて見上げた銀兄の表情の方は、何も映していなかった。
氷のような、無表情。
あの傍若無人で天真爛漫な銀兄が、こんな表情をするなんて。
…何もしていないはず、なのに、俺の胸が氷に触れたかのように鋭く痛んで。

「…兄さん?」

返事は、無かった。
銀兄が掴んだ箇所を白兄が撫でてくれているのに気付いたけれど、俺は動くことさえ出来なかった。


Next.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ