amorfrater

□其の肆.帰ってきた社長とぐうたら兄貴。
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「ん、美味いな」
「それは兄さんに言ってやって」
「ん」

あたたまった弘兄作のオムライスを口にして、白兄はすっかりご機嫌な様だ。
対した俺はというと、何故か物凄く不機嫌だ。
自分でも分からないけれど、兎に角もやもやする。むかむかする。何でもいいからぶん殴りたい。
くそ、どうしたんだよ、俺……

「明日はお前、休みなのか?」

スプーンを口に入れたまま、器用に白兄が訊ねてきた。

「多分。明日自主練だし……寝ようかと思ってた」
「……そうか」
「何かあったのか?」
「…俺も休みだから、出掛けようかと思ったんだ」

出掛ける、か……
微笑しつつも、しゅんとする白兄に助け舟を渡してやった。

「いいよ、早く起きるから。夜まで遊んでやろうよ」
「それだと弘兄がいない」
「…あー…」

弘兄はホスト。ホストは夜が仕事。
今日も例の如く、夕方頃にはもう家を出ていることが殆どだ。
明日はどうなのかは聞いていないが……
不思議だが、本当に白兄は弘兄に執着しているらしい。
……あ、またムカムカしてきた。
白兄に気づかれないよう、ボフッとソファを殴った。
少し考えてみた末、ここしばらく試合もないからいいだろうと、譲歩してみることにした。

「…なら昼までは。昼なら少しどっか行けるだろ」
「……銀起きてるか……?」
「叩き起こせ」
「……昼、か。雅が外出しなければ全員で行けるかもな」

先程から一転、白兄が僅かに口角を笑みに曲げた。
うん、ご機嫌は維持できたようだ。満足げに俺は頷いた。

「……あ、白兄」

ふと、白兄の口端にケチャップが付いているのを発見。
付いてる、と指すと、白兄は全く逆の頬をぺちぺちと触る。じれったい。

「違う、左左」
「……?」
「だーかーらー、もうちょい下」
「…あ」

見付けたのか?声を洩らした白兄に聞いてみる。
すると白兄は、いい悪戯を思い付いたとでも言わんばかりのガキ大将並みの笑みを口角で描いた。
……何だこれ、嫌な予感がする。

「白夜、」
「…………何」
「お前がとってくれないか?」

予感的中。
白兄はやはり無表情だが、何となく笑っているような気がする。
いじめっ子特有の笑みに俺は思わずソファから更に遠のきかける。
が、そんなこと白兄が許さない。立ち上がると俺の腕を掴んだ。

「自分だと分からないんだ」

な?と小首を傾げられる。

「〜っ……」

と、取ればいいだけの話だ。そうだ。そうに決まってる。
なのにどうしてこんなにも緊張するんだ?
きっと白兄に会うのが久し振りだからだ、とさっきも考えた言い訳に縋りつつ、
そっと口元に手を伸ばした。

付いていた赤い米粒を取って、はっとした。
……コレどうすりゃいいわけ……?
漫画でならコレは食えばいいんだろう。が、それをするのは女だ。俺は女じゃない。
まして、食ってしまうと何と言うか、恥ずかしいことこの上ない。
だからと言って放置するわけにも………
指の上の米粒を睨み付けていると、白兄が顔を寄せてきた。
そして、驚く間も無く、米粒の付いた指をかぷりと口に含まれた。

「?!」

ぱくぱくと声の出ない俺の口は開閉を繰り返すだけ。
そんな俺をスルーして、離れた白兄は御馳走様と、やっぱり無表情で微笑んだ。

「…っ何すんだよ!」
「ん?照れてるのか?」
「違っ……」
「小さい頃はこれくらいじゃ動じなかったのにな。成長したということか?」
「……ガキじゃねえんだよ、もう」

そしてまた、頭を撫でられる。
…今度はあまり、嬉しくなかった。何だか、子供扱いされているような気がして。
白兄はいつもそうなのだ。兄弟の中で一番大人っぽくて、そのせいか俺たち弟を“弟らしく”扱う。
それは既に成人した銀兄に対しても同様にだ。
銀兄や亜科姉は弟妹扱いなんて気にもしないんだろうけど
……俺は、なんか、嫌だ

「……白夜?」

不意に、白兄の声色にからかいが消えた。

「少し、遊びすぎたか?」
「……別に」
「それ、口癖だな。別になんかじゃないんだろ」

今度は頭を、ではなく、頬を長い指がかすめた。
その指は、次に首筋に触れる。そしてまた、頬へ。

「……本当に何でもないから」

白兄の仕草全ては、俺を“弟”としてしか扱っていない。
あやすように、俺に触れる。
それがどうしようもないくらい嫌で。
分かっていてもつい、ぶっきらぼうにしか返せなかった。



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