amorfrater

□其の弐.部屋に入ったらオタク姉貴。
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「……ただいま」
「あーごめんね、今あたしの部屋イベントの買い物で埋まってて」

あっさりと返してしまったのは慣れているからだろうか。
この慣れが恐ろしい。
取り敢えずガンガンに音量を発するコンポのボリュームを下げる。
甘党のせいか常に菓子を口にしている姉貴は、今日はポッキーをくわえていた。のに、これはまた上手く喋る。

「…イベントって、何の」
「ふふふ、よく聞いてくれた!黒執事だよ黒執事!小野Dも居たんだから!」

ノリノリで買ったらしいクリアファイルを突きつけられた。ちなみにこれは姉貴によればイベントで買ったものではないらしい。
今出たなんとか執事とかいうのは姉貴がよく(一方的に)喋るので、絵くらいは覚えた。が、小野でぃーって何だ?作者か誰かだろうか。
もし聞いたら延々と語られそうなので、スルーしておく。

よく分からないもので埋め尽くされた自分の部屋とは思えない自分の部屋を見渡す。
可愛らしいフリフリの少女に猫耳が生えている小説
美形に美形の揃ったゲームパッケージ
重なりすぎて何が何やらのクリアファイル達
まさに山のように積まれたオタクの宝。
そう、やはり異常な相沢家。一員である姉貴はかなりのオタクであった。
その山の中、一番上。恐らく漫画ゾーンだと思われる部分の絵が目に飛び込んできた。

「……姉さん」
「んー?」

白夜が指したそれ。
可愛いに部類されるであろう、顔を真っ赤に染めた男。それに腕を絡めるスーツを着た、これまた男。
何故か男と男がカップルのようにくっ付くイラストがあった。

「何で男同士でくっ付いてんの?」

素直に問い掛けたのだが、亜科姉は元から丸い瞳をかっと見開いた。
それに驚く間もなく姉貴に火が点いた。

「白夜、あんたBLってものを知らないわけ?!」
「び、びーえる……?」
「そうっ、ボーイズラブ、すなわち男と男が性別を越えて好き合う……っああ萌える!!」

あまりのテンションの上がり様についには立ち上がる始末。
ぽかんと座り込んだままの白夜は、姉の言葉をほぼ理解していなかった。

ボーイズラブ?男同士?萌え?
よく分からないが、つまり、それは……

「ホモ?」
「否定はしないけど二次元ではBLと言ってほしいね、ラブよラブ!」

姉貴は可笑しいとは思っていたけど、まさかここまでとは。
男同士?いや、あり得なくもないんだ。今や世界では男同士で結婚出来てしまうところさえあるのだから。
だから頑として否定はしなかった。だが、
男同士、か………
再度、イラストを見つめた。
……そういえば銀兄もこのスーツの奴みたいにくっ付いてくるし、かっこいい、よなあ……

「およよ、びゃっくんBLに興味がおありで?」

立っていたはずの姉貴の声が突然耳元で響いた。

「っうわあ?!」
「何々、まさかびゃっくんもアッチ系ですかー?」
「違えよ!んなわけねえだろうが!」
「残念だけどそれ白夜見れないよ18禁だから」
「んなものを未成年の部屋に持ち込むな!」
「じゃあじゃああたしの私物に興味あるイコールあたしに興味ある?」
「どうやってもその等式は成り立たねえ!」
「近親強姦だー」

一向に聞く耳を持たれない。
流石と言うべきか、こういうところを含め銀兄にそっくりだ。
銀兄と亜科姉は年子(銀兄がひとつ上)で、そのせいか否かとてつもなく仲が良いのだ。でもって似なくていい性格まで似ている。
銀兄はオタクでない変わりに変態+ドS。部屋にはAVやらAGやらが転がっているとかいないとか、だ。
終わりの見えない言い合いを繰り返す内に疲れてきた。

「……もういいよ何でも……」
「やーん襲われるー」
「誰が襲うか馬鹿」

何とか前の状態を保っていたベッドに座った。
すると、姉貴がコンポからCDを取り出した。真っピンクだ。

「もーそろそろ戻るよ。どうにかして片付けるから」
「残さず持って帰れ」
「白夜のSー」

言いつつも大量の本を抱えて姉貴は部屋を出た。
少ししてまた戻ってきたかと思えばファイルやらを抱えて出て行った。「じゃね」と小さく呟いて。

……やっと、休める
また白夜は溜め息を落とした。
一気にがらりと静かになった自分の部屋。こうしてみると冷めたものだ。
冷めた己の部屋とは対象に、心臓が僅かに高鳴っていた。
銀兄のときよりかはかなり僅かだが、普段よりは早い脈。
何でだろう?思い当たる節は、さっきのイラスト。

「……変なの」

それは自分に対してか。
もしかしたら、あの抱かれていた男のように赤い顔をしているかもしれない。
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