amorfrater

□其の捌.部活にて高校生と先輩と。
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帰宅して、時刻は午後の1時になるころ。
弘兄は俺が部活だと言ったが、実のところ自主練習だから必ずしもというわけではない。
だが、夏になれば一年の内最大の大会が待っている。今、俺達は予選大会を勝ち抜いている途中だ。
少しでも体がなまっただけでの支障が、結果に大いに関わることがある。
ということで、現在部活の準備中だ。
ラフなTシャツに、竹刀。防具は部室にきちんと保管してある。準備は、完了。
階段を降りると、今の所はまだ全員がリビングにいた。数名眠ってはいるものの。

「結局亜科姉も寝てるし」

ソファには銀兄とその肩によりかかる亜科姉。その膝上には雅。因みに、全員眠っている。
休日であるのに早起きした雅に、彼の世話をしていた亜科姉は相当疲れていたのだろう。眠る姿はなんだか微笑ましかった。

「白夜はこれから部活?」

不意に弘兄の声がした。振り返ると、椅子に座っていた。
服装は既に仕事用のスーツ。胸元が大きく開いたままなのは、真っ昼間から青少年(無論俺もその内に入るはずなのだが)に悪い。
色んな意味でこの兄貴も友人達には紹介出来ない奴だ。今分かった。
白夜はこくりと頷いた。

「ああ、つっても少ししてくるだけにする」
「少しって?」
「2時間くらい。3時過ぎには帰ってくるかも」
「熱心だなあ、俺、そんなにやってたら腕が折れちゃいそう」

弘兄の成人男性らしいしっかりとした腕をちらりと見た。折れるなんて、そんなことない。
それと比べると、まだ高校生であるはずなのに自分の腕はというとがっしりしていて。
まあ、剣道をしていれば普通なのかもしれないが。

「………」

何か、嫌だった。ボディビルダーみたいになりたいわけじゃなくて、別に、普通でいいのに。
だが強くなるには筋力は必須。つまりは自然と付く筋肉も増えるわけで。
はあ、と溜め息が漏れた。
これじゃまるで、女みたいだ。

「俺は中学からずっとしてるしな。兄さんは何部だったんだっけ」
「ごめん、中学は吹奏楽で高校は何もやってない」
「あ、そうなんだ」

てっきり運動系かと思ってたのに。
兄さんが中高校生の時はまだ俺は小学校生で、自分のことにしか興味がなかったのかもしれないけど。
けど、ここまで何も知らなかったとは。
…いや、弘兄だけじゃない。白兄も、銀兄も亜科姉も、以前はどんな感じだったんだろう。
ぽかんとしていると、弘兄の瞳がふっと細まった。
そして、俺との会話で何かを思い出したように呟いた。

「銀もそうだったなあ」
「え?」
「白夜と一緒とはいかないけど、部活頑張っててさ」
「…へえ」

想像が出来ない。白夜は眉間に皺を寄せた。
あのぐうたら兄貴が?まさか、俺と一緒って。あんな奴が俺ほど練習とかしてたって言うのか?
もしそうだというのなら、どうしても腑に落ちなかった。

「白夜?」
「…気に食わねえ」
「ん?」
「俺だって頑張ってる。銀兄なんかより、これだけは絶対負けたくない」

弘兄の目が、小さく見開いた。
驚いてるんだか、引いてるんだか。でも、そんなことどうだって良かった。
頑張ってるんだ。俺だって、負けないように。

「…それじゃ、そういう事だから」

竹刀袋を肩に担ぎ、リビングから出た。
少し目まぐるしい思考に体温が上がっていたが、数人寝ているのを配慮して、静かに扉を閉める。
静寂。そこに響く重なった寝息。

「…相も変わらず負けず嫌い、だな」

今まで一切口を開かなかった月白が、ぼそりと呟いた。
呟きにはどこか懐かしむような、そんなあたたかな色が込もっていた。
白夜の様子に思わず呆けたままだった弘樹はそちらにゆっくりと振り向き、そして微笑んで。

「そうだねえ、昔の誰かさんとそっくりだ」
「誰かさんは白夜より荒れてたけどな」
「負けず嫌いはそっくりさ。流石兄弟だな」

床に座り込んだまま、弘樹はそっと見上げた。先にあるのは、まあ幸せそうな寝顔。
兄弟ってことは俺も負けず嫌いなのかなあ。
ふと内心に浮かんだ疑問に、頬が緩んだ。随分と作り馴れた笑顔だが、家族が絡むと自然と出る。

「兄弟なら、俺も負けず嫌い…だ。研究とか、そういうの負けたくない」

すると聞こえてきた最愛の弟の呟き。ぶっと思わず吹き出した弘樹に月白は酷く慌てて。
何で笑うんだ。そんなにも負けず嫌いは可笑しいか。
知らないよ、聞くなよそんなこと。
なんだか無性に笑えてきてー久し振りに月白と会えて、触れ合ったせいだろうかー、弘樹は声を殺して自然と笑い続けた。



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