amorfrater

□其の漆.高校生と兄貴の秘密。
1ページ/3ページ


「ただいま」
「おう、遅かったな?まさかまじで発情して」
「違うっつの」

トイレから逃げるようにして出ると、直ぐ其処に銀兄は待ってくれていた。
待っていてくれたということは、どうやらもう怒りは欠片も無いらしい。待ってくれていたことに心底安堵した。
しかし安心した心境は一転し、先程聞いた声が脳内を反芻する。
あの粘着質な、少し艶やかな、まるで触れていけないような声が。
指先に嫌な痺れが走った。か、と顔が熱くなる。所謂羞恥の感情。
思わず俯くと、頭上で子供みたいに拗ねたいい大人が唇を尖らせた。

「お前元気なーい」
「そう、か?」
「そそ。そういう時は飯だ飯」

そろそろ時間だしな。
銀兄の言葉に携帯を開いてみると、時刻はお昼時真っ盛り、11時40分。
…それもそうかな。
銀兄に頷くと、そそくさと歩き出した。
美味いもの食べたら、きっと忘れる。あんな声、忘れるに決まってる。
…銀兄に相談してみてもいいのかな
ふとよぎった考えは、自分の生唾を飲む音と共に切られた。絶対に、言えない。
言っていいものなわけ、ない。
だって、だって、あの声は間違いなく

白兄と弘兄だった。




「兄貴!何か買ったか?」

フードコートに着くと、もうそこは人の湖。座るところなんかないじゃないかと肩を落とすと、椅子から身を乗り出した雅が見えた。その奥には手を振る亜科姉。どうやら席をとっていてくれたらしい。
オタクのくせして変なとこの気がきくよな、この人……
雅の何かを期待するような眼差しに、銀兄が卑しい笑みを浮かべた。

「んー?聞いちゃっていいの?お前まだ成人の半分だろ」
「なっ……なんだよ、またえっちなの買ったのか……?」
「おうともよ」

銀兄はさらりと笑ってのけた。元々笑ってはいたのだが。
このエロ兄貴……。
隣で聞いている自分が恥ずかしくて堪らなかった。
騒がしい周りには、どうか聞こえていませんように……
すると変態仲間があろうことか参入してきた。
ずず、とコーラを吸った彼女はそれまた卑しく笑った。この家族、いつも笑顔なのはいいと思うがまともに笑える奴はいないのか。

「へえ、ゲーム?」
「ううん、DVD」
「内容は」
「4P」
「わお」
「わお、じゃねえよ、あんたも止めろよ!」
「な、まさかびゃっくんもあたし達に混ざって3Pをやるつもりで……?!」
「違えよ、つかあんたら何するつもりなんだよ!」
「あたしは妄想銀も妄想」

いつものように突っ込むところ全て突っ込めば、ぜえはあと俺の息が切れる。が、亜科姉も銀兄もまだまだ余裕。
こんの変態コンビが……
その時、俺に忌々しそうな目を向けられた亜科姉が「あ」と短く声を上げた。

「…どうかしたのか?」
「ただいま、凄い人だなあ」

俺の問いに答えるように聞こえた声は、背後から。びくりと、肩が跳ねた。
トイレで聞いたあの声と、全く同じだったからだ。
勿論、思しき人物は、

「弘兄、と白兄……お疲れ」
「人酔いしそうだな……白夜、何か買えたか?」
「今日は何も…」
「そうか…なら昼飯だけでも好きなものを食おう」

何一つ戸惑わず、自然に白兄が俺の隣に座った。そして更に自然に、弘兄がその前に座る。
自然な動作が逆に神経をぴりぴり刺激する。
もし、もし、本当にこの二人が恋人にも等しい関係なのだとしたら。
ホモ……亜科姉曰わくBLとも言うべきか。それがまさか兄弟で、まさか自分の兄貴達の関係だとしたら。

「どうする?あたしとみーくんはもうスパゲッティ注文してあるんだけど」

悶々と考え込む思考に、亜科姉の威勢のいい声が割って入った。
何食うかって、そんなの、考えらんないっつの……

「俺はカレーにしようかな。普通のやつで辛口にする」
「俺はあ…えっと…ハンバーグ食う!」
「偶には栄養の偏ったものもいいよな……チーズバーガーにする」
「ん、びゃっくんは?」

皆がそれぞれの欲するものを言う中、俺だけは何も言えなかった。
食べ物とかより、もう、あの変な声のことし頭になくて。
しかし亜科姉の問いと共に、5つの視線が一気に此方を向いた。

「…じゃあ、俺もカレーにする」

これじゃ何も言わないわけにはいかない。
咄嗟に口にしたのは、先程聞いた中で一番食欲をそそられる単語。
自分が言ったのと同じメニューを聞けば、弘兄はそれはそれは綺麗に、にっこりと笑った。

「それじゃ一緒に買いに行こっか」



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ