amorfrater

□其の伍.ショッピングモールで現役高校生。
1ページ/4ページ


あれから、直ぐに布団に潜り込んだ。
異常なまでの緊迫感。圧迫感。恐怖感。おかしな汗が止まらなくて、簡単に体を拭くだけして着替え、眠ってしまった。
起きたのは6時30分。休日にしてはかなり早起きだ。起きてしまったのは扉の奥から何やらどたばた音がするから。
めったに家に帰ることのない白兄が提案した、兄弟揃っての外出。恐らく、そのせいだろう。
僅かにくるりと寝癖のついた髪を掻いてから、ベッドから体を押し剥がす。
その時、

「………ッ、!」

ずくりと痛んだ。何というんだろう、竹刀で叩かれた瞬間のような鋭さと鈍さを兼ね備えた痛み。
元を辿ると、どうやら痛みは右腕から。目で辿れば、そこには痛々しく痣が浮き出ていた。くっきりとした、指の痕。
思い当たるのは、昨日の、

「……ぁ」

声が出ない。また汗が吹き出す。右腕が痛みのせいなのかーはたまた違うもののせいなのかーびくりと一層大きく震えた。
…銀兄だ
ぎゅっと右手を握った。やはり痛む。
……銀兄が、してきたんだ
いつもへらへら笑っていた仕事もロクにしないようなぐうたら兄貴が、一変した。
理由は何だったか忘れてしまったが、いつも笑っいてる顔からは色という色が抜け落ち、冷たさしか残らない瞳で俺を見据えた。
あの目は、忘れない。忘れられない。

「……はあ……」

ようやく出せた溜め息のお陰で全身の緊張が溶ける。ぼふりと布団に逆戻りした。
……怖かった。怖かったんだ
ぎゅうと枕を抱きしめる。もう、なんか、兄さんがあんな顔するなんて、思わなかった。
ずきずき痛む胸を撫でると、もうひとつ、はたりと思い出した。
反対の腕の温かさ。いや、体全体の温かさ。
……また別の兄、白兄に、抱きしめられた温もり。

「…………」

さっきまでの冷たさはどこへ行ったやら、顔がむしろ熱い。
何日振りかの兄貴に会っただけじゃなく、まさか、ぎゅっと抱きしめられるとは。
恥ずかしい?恥ずかしいというのか、恥ずかしい……でいいのか。

「………あざ、リストバンドすりゃいっか……」

つい緩みそうになる頬を左手で押さえ、空いた右手を見て、やっぱり笑いそうになった。

……そっか、今日はずっと白兄といれるんだな




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ