amorfrater

□其の肆.帰ってきた社長とぐうたら兄貴。
1ページ/3ページ


「お……かえり」

いきなり目の前、本当に目の直ぐ前に現れた綺麗な顔に一瞬言葉が詰まった。
綺麗というのはお世辞でも何でも無く、月白ー白兄はそれこそ女みたいに綺麗なのだ。
そのくせ体格は比較的細く、性格もいたって真面目。勤める職業も製薬会社の社長。
これでモテないわけがない。
…少なくとも俺が小学校の頃、まだ高校生だった白兄が365日間中365日手紙を貰っていたのは確かだ。
ほとんど不欠要素のない兄の眼鏡が当たった箇所を、白夜は押さえた。

「久し振り、も付け足しておくか」

ふふっと嬉しそうに微笑んだ白兄は見た目とは裏腹に子供のようで。
自分より幾分か背の高い兄を、更に座りながら白夜は見上げた。

「ああ、そうだな」
「……ヒロは?」
「ん?」
「あ、…弘樹は、もう仕事か?」

ヒロ。ホスト仕事中に呼ばれる弘兄のその名を、白兄は慌てて訂正した。

「弘兄なら、うん、もう仕事行った」
「……そうか……」

いやいや、何でそんなに落ち込むんだよ。
白兄ははっきりと分かるくらい膨大に肩を落とした。
……もしかして、長らく会っていない唯一の兄だから寂しかったとか?
白兄は相沢家の次男。下には(俺を除いて)ぎゃあぎゃあ騒がしい奴等が3人もいるのに比べ、
上は物静かで人当たりも良い弘兄ひとりなのだから
弘兄に執着するのも無理はないのか、と白夜は考えてみる。
落ち込んだままの白兄は眼鏡を中指でかちゃりと押し上げた。

「…それよりも飯、どこにあるんだ?」
「冷蔵庫。あっためようか」
「自分でするから大丈夫だ。…ありがとう」

ぽんと頭を撫でられた。
久し振りの“兄”らしい感触に、少し照れくさくなって顔を逸らした。
まあ、何せ弘兄は余裕そうだけど案外抜けてるところもあり兄としての威厳は、あまりない。
銀兄はー言うまでもなく鬱陶しいので威厳はゼロだ。
兄、と余呼ぶ中で最もそれらしい白兄に、それらしいことをされてしまっては
……普通、気恥ずかしいと思うよな?俺だけじゃねえよな?
顔を逸らした俺に、上から笑う声が降ってきた。

「白夜は昔から照れ屋だよな」
「うっせ」
「ああ、今日はオムライスなのか。誰が作ったんだ?」
「…無視かよ……弘兄」

ラップのかかったオムライスを、かたりとレンジに入れる。
レンジ特有のファン音の中、また白兄は笑った。

「そっか」

……何でこんなにも嬉しそうな顔をするんだろう。
殆ど無表情の白兄は、ちょくちょく笑う。
人をからかう時とか、仕事が上手くいった時とか、
…今日は気のせいか、弘兄の話の時によく笑ってる。

「………」

白兄はレンジの中で回転するオムライスを、まるで子供みたいに眼鏡の奥から見詰める
……なんかもやもやしてきた。
膝を抱え、間に顔を埋める。

兄弟一大人なくせして兄弟一子供っぽい
そんな兄に撫でられた頭を自分でわしわしと掻いてやる。
それも、気恥ずかしいのは久し振りにあったせいだと力を思いっきり込めて。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ