本棚-U

□いつもの僕ら
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「朝起きたらサンタからのしょっぱいプレゼントが届いてたアル」

「………え、なに、嫌がらせ?」


鈴が鳴るような声に振り向いた銀時が見たのはまばゆいピンク頭、ではない。
光を反射して艶やかな漆黒のポニーテールだ。
今日は二人で買い物に来ていたのだからそこに彼女がいるのは当然のことで、銀時が思わず仰け反ったのはその口から出た声色のせいだった。

「神楽ちゃんが報告に来ましたよ。そう言って」
「ああそう……まぁね、酢昆布だからね。しょっぱいよね」

納得はしたが合点がいかない頭でも、伊達巻を買い物かごに放り投げるのは忘れない。
それを見たお妙が眉をひそめたが、かごを持っているのは銀時だ。

「ちょっと、何で伊達巻二個も入れるんですか。あ、あと蒲鉾。……もぅ、だから酢昆布は止めましょうって言ったのに」
「バーローかまぼこなんていつでも食える。伊達巻と栗きんとんは重箱一杯に詰め込みたい派だからね、俺は。……っても、お前の選んだ髪飾りだってちゃんと靴下に入れただろ」
「糖尿馬鹿。死んだら雪のなかに放り投げますからね。私は数の子が食べたいです。あと、黒豆も。髪飾りはすごく喜んでましたよ、さすが私のセンス!それに比べて銀さんときたら……」
「あ、黒豆もいっこ入れろ。んだよ、ちゃんとクリスマスバージョンのパッケージ酢昆布だったぞコノヤロー。それ言ったらお前が新八にあげたアレなんなの。武道の雑誌とか嫌がらせ?」
「こら、甘いものオンリーのおせちとか冗談じゃありませんからね!銀さんだって木刀一本でしょ、カレー臭の」
「おせちの甘いものは健康そうだからいいんですぅ。新八のはちゃんと新しいの買いましたァ。特売だったけど」
「ちょっと、だから伊達巻!もう、そんなに食べたいなら私が作りますから」
「………は?」

隙あらば伊達巻を籠に入れようとしていた銀時の手が止まる。
目を丸くして、先程から買い物攻防戦を繰り返していたお妙が、同じく訝しげに銀時を見上げ、首を傾げた。

「なんです?」
「いやいや……なに、作れるつもりなの?伊達巻なめてんの?」
「喧嘩売ってるんですか?伊達巻なんて所詮甘い卵焼きでしょ?」
「今すぐ伊達巻に謝れ。つかお前の甘い卵焼きとかおせちに入れたら重箱含め真っ黒に仕上がるからね!?」
「あらまぁ銀さんが私に土下座してくださいな。それともあなたの頭を真っ黒にしてあげましょうか?」
「あ、すいません忘れてください……。ま、まぁあれだな、こんなもんか、買い物は」

一通りスーパーを一周すれば、籠の中はだいぶ重くなっていた。
覗き込んだお妙が、そうねと頷く。
伊勢海老が食べたいとか無茶を言われなくてよかったと、安堵の息を吐きながら銀時はレジに並んだ。
年末の店はどこも混んでいて、買い物一つですら大仕事だ。それらを手慣れた様子で、お妙が、マイバックに詰めていく。こんなところばかり家庭的な女だ。



外に出ると冷たい風が顔を覆って、銀時は体を震わせた。
寒いのは嫌いだ。
しかしこれから帰ってこたつに潜ることを考えれば、少しばかりは体を冷やしてもいいと思える。
かじかんだ手がじわじわと和らいでいく瞬間は嫌いではなかった。

「あ、そうだ」
「ん?」

片手にティッシュの箱五個入りを持っただけのお妙が、何かを思い出したように顔を上げる。
ピンクのマフラーに顔を埋めているのが少し苦しそうだったが、同じデザインの水色のマフラーも同じように自分の口元を覆っているのを見て、寒いから仕方ないと銀時は思った。

「なに、忘れもん?」
「いいえ、銀さん、ちゃんとお金残しておいてくださいね?」
「いやいや、今のでだいぶすっからかんだけど……なに、欲しいもんでもあんの?」

そう言えば自分がお妙にクリスマスプレゼントとしてあげたネックレスは、マフラーの下に埋まっているのだろうか。
それだって、オモチャのようなもので安物だったが、喜んでいたはずなのに。
初売りで買い物したいと言われても、今の自分にはそこまでの余裕はなかった。
しかし、お妙は不思議そうに銀時を見上げると、くすりと笑った。

「違います。……お年玉」

よもや忘れていないだろうな、と言いたげなお妙の表情に、銀時は小さく声を上げる。
そうだ、お年玉。お年玉……

「ちゃんと用意してないとまた神楽ちゃんが拗ねますよ」
「……いざとなったら酢昆布でよくね?ポチ袋に入れて」
「よくありません。もう……仕方ないわね、そんなことだろうと思って別にとっておいてよかった」

まるで最初から期待してないとでも言いたげにため息を吐いて、お妙が見せてきたカバンの中には可愛らしいポチ袋が入っていた。
すでに中身が入っているのだろうそれは、神楽と、新八の分だ。

「……助かるわ、そういうとこはしっかりしてんのな」
「銀さんが頼りないからね」

やはり財布はお妙に預けるのが正解だ。
すっかり頭から抜け落ちていたが、金額は少なくても行事としては重要なことだろう。
銀時は、悪かったな、と形だけ呟いた。
お妙は、いつものことだからと笑う。
歩く町並みで、子供の歌う外れた音楽が響いた。



もういくつ寝ると、お正月?








*****おまけ

「神楽ちゃん、ちゃんと掃除してよ。大掃除って一年の汚れを落とす大事な行事なんだよ」
「まずはお前がそのボンノウだらけの脳ミソの汚れを落としてくるアル」
「人が汚れまくってるみたいな言い方止めてくんない!?ったく……どこで煩悩なんて覚えてきたのかな」
「銀ちゃんと姐御がお互いをボンノウだらけって言ってたアル。それって悪いことアルカ?」
「うーん……僕はいいと思うけどな。除夜の鐘を鳴らすのは煩悩を滅するためだし一年に一度くらいはいいかもしれないけどさ、やっぱり人っていうのは……」
「腹減ったアル」
「ちょっとォォ!?今いいこと言おうとしてたからね!?振ったの君だから!!」
「新八の話長いアル。鐘なら付きに行ってもいいけどその前にご飯」
「はいはい、銀さんたちが帰ってきたらね」
「チッ………。……で?」
「で?」
「夕飯できるまで一言なら新八の話聞いてやってもいいアル」
「………つまりね、」

汚れた雑巾を手に、窓を拭いていた新八が軽く息をつく。
疲れたのか、背をそらすとパキリと関節の音がした。
濁った景色しか見えなかった窓の外が眩しいくらい煌めいて、神楽は目を細める。


「腹減った、って言わない神楽ちゃんなんかつまんないって話だよ」












中途半端な時期ゆえに中途半端な話!
小説じゃないですね。ただの会話文。
坂田家最高!!
みなさまよいお年を!

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