十万打+一周年+閉店セール

□戦う。僕らはいつだって
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「倒れた?」
「姐御が?」

憂鬱な表情で出勤してきたかと思えば発声第一にそう切り出した新八が、小さくうなずいた。
かと思えば通常通りに部屋の片づけを始める物だから、銀時は神楽と視線を合わせて戸惑うしかできない。
あの女が。というかなぜ。

「過労だってことらしいですけどね。一泊入院するかって言われたんですが、姉上がお金がかかるからいらないって。
 一日寝てればなおるし、病気でもないから仕事に行って来いって」

過労。
口の中で呟けば何とも響きのよくない言葉だと思った。
最近は確かに頻繁すぎるほどに店に出ていて休む暇もないくらいだと新八も言っていたし、先日見たときに顔色が悪い気はしていた。今思えば。
しかしなんだってそんな無茶をするのだろうか。
あの体力自慢の女が倒れるだなんて、銀時は考えてもいなかった。いや、風邪はひいてたけど。

「いやいや、ブラコン新ちゃんらしくないだろ。別にいーんだぞ?今日の草取り仕事は神楽に任せて、」
「そうヨ、銀ちゃんが一時間でパーッとこなしてくれるネ」
「俺は呼び出しかかってるっつってんだろ!?」
「いいんです」

面倒くさい仕事を押し付けようとする上司と同僚を一瞥もせず、散らかった洗濯物を拾いながら新八はため息をついた。
いつもの彼ならば張り付いて姉の看病をするくせに。

「どうせ僕が家に残っても姉上に叩き出されるでしょうし。ご飯は作っておいてきたし」

苦笑する新八は奇妙なほどに物わかりがよくて、銀時は顔をしかめた。
その表情に、態度に、無理がないことがわかるから余計にだ。
草取りのためのバケツや軍手を準備する新八と手伝う神楽にしばらく目線を送っていたが、まぁならば心配するほどでもないのだろうと、銀時も腰を上げた。
今日はなぜかあの不良警察から呼び出しがかかっている。
別に無視をしてもよかったが金になる話だというから行くことにしていたのだ。

「そ。じゃあ俺もそろそろ、」
「だからね、銀さん。これ、お願いします」

立ち上がった銀時の目の前に、いつの間にか新八が立っている。
差し出されたのはスーパーの袋で、買い物かなんだ、と思うが中身は詰まっている。
お願いしますって、何が。

「姉上の様子、見に行ってくれますよね?」
「……ハイィ?」

袋の中には栄養ドリンクと食材の数々。
らしくないと思われた新八はやはり新八で、しかし有無を言わせない微笑みに、銀時は袋を黙って受け取るしかなかった。






弱くなったものだ、とお妙は思う。
ぼんやりとした視界の中で天井を見つめる。
外は明るくて静かだが、近所の子供のはしゃぐ声だとか、騒音が聞こえる。
こうして明るいうちに天井を見ることなんて滅多にないからだろうか、自宅ではないところにいるような気がした。独りで。
物音の立たない家の中は、新八がいないのだから当たり前だ。
自分から、仕事に行けと追い出しておいて寂しいと感じるのは間違っているとお妙は知っている。
いや、間違いではない。寂しい、そう感じるのも体調の崩れからだろうか。

「……やぁねぇ」

一人で仕事場に残って後片付けをしている時以上に、こんな風に外の声が聞こえるほうがよっぽど孤独を感じる。
世界はつながっていて、しかし自分だけは一人だと思うような。
それが『孤独』だということも、分かってはいるのだ。
自分はそれを解消するべきか、慣れるべきか。
解消するならどうやって?ずっとそばに誰かがいてくれるだなんて保証はない。
保証してくれる誰か、なんて。

「バカなことばかり考えちゃうわね」

どれも弱っているせいならいい。
大丈夫だ。回復すれば、自分は今まで通りに戻れるはずだ。
本当の孤独なんかじゃないし、一人で立てる、歩ける。
そう思わなければ。

「……こんなこと、新ちゃんには頼めないもの」

頭の中で言い聞かせることはたやすい。
一人じゃない。疲れることだって倒れることだって誰にでもある。
それでも、どうにかしてやっていくことはできる。できるはずだ。
彼だってそうしているのだから。



「新八にできねーなら俺がやってやろうか?」



唐突に、入り込んできた声は雑音というには近くはっきりしていて、お妙は思わず目を見開いた。
上半身を慌てて起こすと、いつの間に来たのか男が立っている。
その、光を反射する銀髪はほかの誰でもない。

「銀さん?いつ、」
「今。寝てるかと思って忍び足で来たんだけど、起きてたのかよ」
「……ただ休めって言われたって、そんなに長く寝てられないわよ」
「ま、そりゃそーか」

よいしょ、と年寄くさく布団の隣に腰を下ろすと、銀時は持っていたスーパーの袋を開け始めた。
なぁに、と覗き込むと栄養ドリンクの数々。そして食材。
なるほど、新八が頼んだのだろう。
この男にこんな風に考えて買い物をしてくる配慮の細かさがあるとは思えなかった。

「で?依頼か?」
「はい?」
「新八に頼めないことだろ?万事屋銀さんが承りますよ」

ほらよ、と栄養ドリンクのふたを回して差し出してくる。
その手を、お妙は戸惑いながら見つめた。
その手がとても強いことを、お妙は知っている。







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