十万打+一周年+閉店セール

□ぼくらの保安作戦
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いつから、なんて知らない。
そもそも始まっているのかすら分からないんですよ。


少しだけ苦みを加えて微笑んだ少女のお酌に、お登勢は思わず目を瞬かせた。
あぁ、これはどうにかしなければならないと思ったのは少女の為でも、もちろん同じ屋根の下に住む堕落した男の為でもない。
ただ、かぶき町の為だった。








「姐御と銀ちゃん?」

目を丸くして、神楽はそこからしばらく考え込む。
その頭にたんこぶが出来ているのと、カウンターの席を二つ分空けて警察の少年が座っているのはお登勢が連れてきたからだ。
とはいえ誘ったわけでもない。

「ばーさん、俺はもう帰ってもいいのかィ」
「店の前で暴れて扉壊した罰だよ、弁償すんならいいけどねェ」
「土方のアホにつけといてくれィ。大丈夫、払ってくれるさァ」

それが信用ならないから駄目だとばかりに椅子に括り付けられたのを不満そうに、沖田は頬の痛みに顔をしかめた。
どうしてこんなことに巻き込まれたのかと思うが、神楽との乱闘の中で店の扉を切り倒したのは紛れもなく沖田だった。

「銀ちゃんと姐御って付き合ってるのカ?知らないアル」

その間、ずっと頭を抱えていた神楽が難しそうな顔をする。
その様子を見て、お登勢はため息を吐いた。
同居している少女がこの認知度ならば、懸念はますます深くなるばかりだ。

「ありゃあイクとこまでイッてんだろ、間違いねェや」
「お前に何がわかんだよ、サド」
「気付かねェとか脳ミソ入ってんのかチャイナ」

沖田はお登勢の話にまったく興味を示してはいなかったが、なんだそんなことと深く呆れている。
見れば分かるだろう、と言った言葉は本当だろうか。

「アタシもそう思ってたけどねェ……どうもあいつらはこう、雰囲気ってモンがないのさ」

お互いが想い合っていることは確かに見れば分かる。
分かるが、ならば恋人なのかと言われるとそんな空気がない。
それを、意識するまでお登勢は疑ったことなどなかった。

「あの旦那だろィ?手ェ出してねェって方がおかしいんじゃねェのか」
「銀ちゃんは姐御に手を上げたりしないアル。姐御は銀ちゃん蹴り飛ばすケド」
「ちょっとお前黙ってろお子さま」
「んだとコラァァ!」

いい加減にしろ、とお登勢は酒ビンで神楽と沖田の頭を殴り付けた。
また、今度は店内を壊されたらたまったものではない。

「……つまり、アタシが言いたいのはね、当事者がそれを分かってんのかどうかって話さ」

一服で気持ちを立て直したところで、仕切り直す。
お登勢がこんなことを考え始めたのは先日、お妙が店に立ち寄ったときのことが原因だった。









お妙は仕事帰りだったのか、夜の格好で酒を土産に持ってきた。
銀時はいないよ、と声をかけると、お登勢さんにですよと笑った。

「病み上がりなのに無茶してないかと思って」
「余計なお世話、と言いたいとこだけど……そのわりに酒が見舞いとは早く死ねってことかィ?」
「あら、夜の女にとってお酒は薬、でしょう?」

それは、お登勢が先日体調を悪くした時にお妙に言った言葉だった。
見舞いなら酒を、と言ったのは自分だったと思い出す。

「……付き合うかィ?」

貰ったばかりの一升瓶をかざすと、ご相伴にあずかります、とお妙はカウンターに腰を下ろした。
よくできた娘だと思う。
なんなら本当の娘のように、お登勢には思えていた。
実の子供のいないお登勢にとってはかぶき町の子供たちは孫のようなものだったが、不肖の息子としか思えない問題児が居ついてから、さらに特別な存在が増えていた。
となれば、その行く末を案じるのも当然のことだ。

「銀時とはうまくいってんのかィ」

酒を注ぎながら問うと、お妙は目を丸くした。
え、と口が開かれる。
そんなんじゃないです、と返ってくるとお登勢は思っていた。
この子供たちは二人とも素直じゃないから。
しかし予想に反して、お妙は少し考える素振りを見せ、どうなんでしょう、と言った。

「……うまく行くもなにも、銀さんにとって私って何なのかしらって、思うんです」

お登勢にしてみれば、驚愕に値する言葉だった。
表には出さなくても、裏ではしっかり繋がっているものだとばかり思っていたからだ。
多少の不具合があったとしても、それを周りに漏らすことはお妙はしないだろうとも。
しかし、相手がお登勢だからなのか、多少どころではなく不具合が生じているのか、お妙は目の前で曖昧に笑っている。

「別に、付き合おうとか言われたこともないし、」

それでも最近、連れ立って歩く二人をよく見かけた。
少し距離の空いたまま、笑い合う姿は町中のみんなが認識している。

「そういう行動とか、言葉もないし。デートもしてないし記念日もない。
いつから、ってたまに聞かれるけど、分からないんですよ」

付き合ってるのかしら、とぼんやり呟いた少女が笑っているのはあまりにも痛々しかった。
なんとかしなければと思うのは、仮初めの母の気持ちと、かぶき町の危機のためだった。









話を聞いた神楽は憤慨して飛び出そうとしたためお登勢が首根っこを掴んで止めた。
沖田は呆れた顔でため息を吐く。
とにかく、どうにかするよ、とお登勢が提案をしようとしたところで、壊れた扉の向こうから流れ込んでくる冷たい空気に気付いた。


「……新八」


一番に気付いたのは神楽だったが、冷や汗を流したのは恐らく三人同時だ。
おそらくは未だ、上司と姉の関係など認めていないのではないかと思われた少年は、似付かわしくない不穏な空気をまとっていた。
喚くか泣くか。
身構えた三人の前で、新八が店内に入ってくる。



「作戦会議、しませんか」



少年は、恐ろしい程冷静に提案をした。








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