ゆめ

□夢は変更がきくらしい
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小さな頃から、海軍に憧れていた。

私の故郷には海軍基地があった。小さな島の、ちょっとした立ち寄り所みたいなものだ。
白い制服の彼らの姿は、見慣れたものではあったが、いつもとても格好よく思えたものだった。

いつか私も海軍になる。

そう思って、私は武術を習い、航海術を勉強した。最初は子供のお遊びのようなものだったが、16歳になれば軍に志願できるのだ。それまで私は頑張った。

島で海軍を志願する子は珍しくはない。
私の幼馴染みもその一人で、私たちはいつも一緒に修行や勉強をした。
彼が勉強していたのは航海術ではなく、医術だった。軍医になりたいと言っていたのだ。

身長は高かったが、あまりに細い男の子だった。不眠症らしく、いつも目の下にくまを浮かべていて、私は密かにいつ倒れるかとはらはらしていた。
しかし、そんな私の心配をよそに、彼はめっぽう強かったし、頭もよかった。
彼と一緒に軍に入れたら、どんなに心強いだろう。私はそう思って、18歳の誕生日を楽しみにしていた。




しかし、待ちに待った18の誕生日の前日のことだった。

私はさらわれ、島から連れ出された。

目の下にくまを浮かべた海賊によって―――。








「…ほんっとうに信じられない。なんであんなこと!あと一日で海軍に入れたのに!」
「しつけぇな。もういい加減忘れろ」
「この日が来ると思い出しちゃうんだよ!ほらカレンダーにも」


「拉致記念」と書かれたカレンダーを指して見せると、だらりとソファに座った幼馴染み―――トラファガー・ローは、わざとらしく手を広げて呆れてみせた。もちろん、口角をにやりと上げたまま。
私は舌打ちのひとつもしてやりたくなった。

あの日、こいつは18の誕生日を目前にした私を拉致して、島を出たのだ。
しかも、よりによって海賊になるためだと、そして私に航海士をやれと、いけしゃあしゃあと言ってのけたのだった。


「ずっと、一緒に海軍に入ろうって言ってたのに、騙してたなんて。私の航海術は海賊やるためじゃない」
「夢は自由だろ?変更もきく」
「じゃあ本当に海軍になりたかった時もあるの?」


ローはしばらく顎を撫でながら考えていたが、やがてきっぱり言い切った。


「ないな」
「…この嘘つき!!」


私はそう言ってローの膝の上に飛び乗った。
それを難なく受け止めるがっしりとした腕に、成長してしまったなあと思う。
ひょろひょろだった彼は、相変わらず細いが、いつのまにか私が心配する必要もないくらいたくましくなっていた。

もう子供時代とは違うのだ。
そして、子供の頃の夢とはまるで逆方向に私は居た。


「ロー」
「ん?」


―――それでも、今こうしていられるのだから、別にいいのだった。実は。
そうは言わなかったが、私はローの胸に顔を埋めて、ぎゅっと抱きついた。






*男性の「ん?」に弱い

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