ゆめ

□ダンジョ
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一万回、一万一回…。

せっかくキリの良いところにいったのに、ゾロは止めることなく腕立てを続けている。
私はそれを見ながら、うわぁと思っていた。

ストイックな面をして、本当は超ド級のマゾヒストなのだろうか。
片手の親指一本で体を支えながら、ゾロは涼しい顔をしているが、剥き出しの上半身は汗だくだ。滴った汗が甲板にみずたまりを作っている。
こんなこと、私だったら絶対楽しくないが、楽しいからやっているのだろう。
毎日の鍛練なのだから、それとももはや習慣化しているのかもしれない。


そうは思いつつ、私はゾロの鍛練を見るのが好きだ。自分にはないものがある体を観察するのは面白い。特に男の、こんなに筋肉まみれなのはゾロしかいなかった。

私は船縁に背中をつけて、体育座りをしながら、ゾロを見ていた。

一度腕を曲げる度、肩や胸の筋肉がむきむきと盛り上がるのが見える。それは意思をもったひとつの生き物のように、あまりに躍動的だ。
私は自分の腕を見下ろした。腕を振ったりして動かしてみるが、筋肉が僅かに動くのが脂肪の下にちょっと見えるだけだ。脂肪がなくて、筋肉が発達していないとああはならないわけだった。


「なにやってんだ」
「え?あ、いや、筋肉すごいなってさ…」


いつのまにか腕立てを止めていたゾロが、あぐらをかいてこちらを見ていた。首にかけたタオルはびしょびしょだ。
新しいタオルを渡すと、わり、と言って汗を拭き始めた。


「当たり前だろ。鍛えてるからな」
「そうだけど…私も筋トレしたら、そうなるかな」


ゾロは私をしげしげと見つめ、もったいぶって答えた。


「…10年かかるな」
「ええー!?」


たしかに脂肪だらけだけど10年かよ。
そう思って驚くと、ゾロはげらげら笑いだした。
からかわれたことに気がついて、私は床に手をついて前のめりになり、ゾロの頭を手のひらでぱんと殴る。


「いでっ!はいはい、悪かったよ。ま、5年だな5年」
「二倍じゃん!サバ読みすぎ!」
「まー俺みたいにってんなら、やっぱ10年だけどな。年期がちげぇよ」


ちょっと誇らしげにそう言うゾロは、やっぱりマゾなのかもしれない。年期って。
そう思いながら、私は腕を伸ばして、ゾロの腕に触った。
既になんだか固いが、意外ともちもちしている。
そのまま「力入れてー」と言うと、ぐんと音も立ちそうな勢いで筋肉が盛り上がり、まるで鋼のように固くなった。


「うわーすごいすごい!はい、力抜いてー…おおおー」


わたしはついはしゃいで声をあげた。
脱力した筋肉は、固いけどやはりもちもちだ。先ほどのような、押してもへこみもしない硬度はない。
あまりに身近に人体の神秘を発見してしまった。


興奮して、しばらくゾロの腕を揉んだりつまんだりしていたが、「くすぐったいから止めろ」と言われて私は手を離した。
少し顔が赤くなっているあたり、照れているらしい。

珍しいと思ってぼーっとゾロの顔を見ていたら、ゾロはおもむろに手を伸ばし、私の腕をつまんだ。
正しくは、腕の肉をつまんだ。


「…ちょっ」
「…」


急のことで反応が遅れてしまった。
ゾロは硬直している私の腕を少しふにふにと揉むと、ふうむと言ってあっさり手を離した。
そして、うんうんと頷き、


「…ま、こんなもんだろ」
「……ちょっ…き、貴様」


なぜかやけに満足そうなゾロに、私は今度は容赦なく拳骨を喰らわせた。





*隠れ二の腕フェチなゾロでした。

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