ゆめ

□約束の地にて待つ
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―――ずいぶん遠くまで来てしまった。


眼下に広がるマリンフォードの町並みを見下ろしながら、私は痛切にそう感じている。


あの戦争の後の混乱を越え、私は昇進して地位の上では将校となった。
年齢を考えれば異例のことではあったが、これにはなんらかの含みがあるのだろう。
詳しくは考えていないし、また考える必要もない。

しかし一年も経った今、私はこうして町を見下ろし、思いを巡らせている。




海賊、麦わらのルフィと私が同郷の仲であることは、暗黙の内に秘されていることだった。

ガープ中将は元より、知っているのは恐らく、親しい友人の数名くらいだろう。
私は海軍に入ってから、彼の関わる事件には一切関わっていない。
「ルフィ」と名を呼ぶこともない。


しかし、忘れたことは一度もなかった。
一つ、年上のルフィ。
元気で無鉄砲で、私に精一杯お兄ちゃんぶっては、彼の兄に笑われていた。
海賊になると言った彼らに、お前は女子だから連れて行けないと言われ、私は強くなるためにガープ中将に連れられ海軍の門を叩いた。
辛い鍛練と戦いの日々の中で、その思いを忘れたことがないと言えば嘘になる。
制すべき悪として海賊と向き合い、疑ったこともあった。


しかしそれでも、忘れたことはなかったのだ。
ルフィのことを。




その時、部屋のドアがばたんと開き、部下の一人が飛び込んできた。


「じゅ、准将!しゃ、シャボンディ諸島で、む、む、麦わらの一味の目撃情報がありましたっ!!」
「…そうか。私が出動する。君たちは待機」
「し、しかし」
「相手は“麦わら”だ、数で敵う相手じゃない」


私は彼を見つめた。
私より少し年上の青年。年下の小娘を、誠実に上司として慕ってくれている、良い海兵だ。

彼は顔を真っ赤にさせ、動揺しながらも、敬礼を返した。
私は彼を見つめたまま、小さく呟いた。


「…すまないな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。待機命令を伝えてくれ」


―――すまない。


私はもう見えないその背中と、指示を待つ部下たちの影に、深く頭を垂れた。





彼は怒るだろうか。
私を許さないかもしれない。
しかしそれでもいいと思った。
ただ一言、謝りたいのだ。





私は集まった海軍の前で、コートを脱ぎ捨て、それに剣を突き立てた。
海兵たちに動揺が走る。それは反逆の意を示す行動だった。

同じく動揺している麦わらの一味を見上げ、私は叫んだ。


「ルフィ!!ごめん!!!!」


強くなって海賊になる。
そう言って、私はここまで来た。
しかし、それを忘れなかった時があるといえば嘘になる。
そして、なにより一番辛い時、私は彼に対峙する立場にあったのだ。

仲間に囲まれ、ルフィは静かに私を見つめている。私が覚えている姿より背が伸び、体格もがっしりとしていた。
しかし、その目だけは変わらない。
意志をたたえて揺らがない目は、私を断罪するかのようにひたと見つめていた。




「おせーよ」




しかし、しばらくの後、ルフィはそう言ってにっと笑うと、腕を伸ばしてわたしをつかんだ。
引っ張り上げられ、甲板に打ち付けられる前に、私の体をしっかりとした腕が包む。
頬に暖かな胸板が当たった。


「ずっと待ってた」


頭上から聞こえた言葉は、慈しむような響きを持って私を許している。

―――ごめんなさい。


それでも、こぼれそうになるその言葉は、ぐいと頭を胸に押し付けられて止められてしまう。
代わりに溢れた涙は、ルフィの胸を静かに濡らした。
もう何も、言えなかった。






*軽く解説
ルフィと海賊になるため海軍になって、だんだん目的が曖昧になってきて、でもルフィのことはずっと思ってて、薄情な自分とエースの死に対して謝るために、海軍を抜けたヒロイン。
ルフィもヒロインのことを覚えていて、船に乗せてくれました。
笑って許す男前な船長が書きたかった。

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