ゆめ
□敵わない
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控えめのノックをふたつ。
目の前の扉に拳を軽く打ち付けると、中から「どうぞ」と柔らかな声がした。
少し緊張しながら、扉を少し開けて中を覗き込む。
ロビンが一人机の前の椅子にかけ、薄く笑みを浮かべてこちらに顔を向けていた。
相変わらず、とても綺麗な姿勢だ。
変なところを見ていると言われるが、俺はいつも見とれてしまう。
黙ったままの俺をいぶかしんだのか、ロビンはわずかに首をかしげ、気づかうような表情をした。
「どうかした?」
「あ…そろそろケーキが焼けるそうだ。サンジが呼んでたぞ」
「そう。ありがとう」
そう言って微笑んだロビンにつられるように、俺は部屋の中に入り、机の上を覗き込んだ。
机にはたくさんの本が積まれている。ロビンの前に開かれた本は、その中でも特に古びていた。紙はすっかり黄色くなり、濃いしみがいくつも浮いている。その隣には、インク壺とペンが置かれていた。
「勉強?」
「いいえ。劣化した本を修正しているの」
「へえ」
紙なのだから当然劣化もするだろうとは思うが、それをこうして修正する人も居ることに驚いた。
俺も本は好きだが、古くなって汚れてしまえば捨ててしまう。
そういうものだと思っていた。
「すごいな」
「そうかしら」
「ああ」
熱意をこめて頷くと、ロビンが口を押さえて小さく笑いをこぼした。
「面白い人ね、あなた」
「え、そうか…」
よくわからないが、ロビンはなおも笑いつづけている。
なんとなく照れ臭くなり、それを隠すために、俺はロビンに手のひらを差し出した。
「…お手をどうぞ」
「ふふっ、ありがとう」
せいぜいキザな仕草を決めてみたのに、ロビンが優雅に微笑んで手を乗せるものだから、俺はまたなんとも気恥ずかしい思いをするはめになった。
*ロビンがそんな作業してたら惚れる。っていう妄想。