ゆめ

□君は薔薇より美しい
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背中の“正義”を捨てた時、気がかりなことが一つだけあった。
かつての部下達のことだ。


ついてくると言った者は連れてきたが、残った者も居る。
その内の何人かには話をして小芝居をうたせたので、経緯としては、俺個人の反逆ということになったはずだ。

だが、相手は世界政府。何があってもおかしくはない。
しかし、軍を捨てた将校の部下の情報など、公にはされない。
何人かは自ら軍を辞したらしいが、皆除名はされていないということだけ聞いた。


彼女はどうしたのだろう。


今でも、一番に頭に浮かぶ。
自分を一途に慕ってくれた、小さな海兵。まだ若い女性だったが、聡明であり、強かった。階級は大尉だったか。

出ていく時、彼女には何も言わなかった。

何故だかはわからない。
連れていくわけにはいかないと思っていた。


―――ドレーク少将


しかしあの日からいつも、自分を呼ぶ涼やかな声が、耳の奥に残っている気がした。





そんなある日、海軍との交戦が起こった。
港で待ち伏せをされたのだ。

無尽蔵に沸いてくる海兵達を相手にしていると、ふいに目の前に、鋭い白刃が振り下ろされた。

それを両手の得物で受けると、思いがけない力強さで押される。


ギンッ


それを弾き、相手の顔を真っ向から見て、俺は一瞬体を硬直させた。


―――凛とした眼差しが、あの頃と変わらずに俺を見つめている。


その女性は何かに耐えるように眉を寄せ、俺を睨み据えていた。
たった一年程しか経っていないが、少し大人びたように見える。髪も伸びていた。

しかし確かに、彼女だ。


「大佐!」
「逃すな!!」


どこかからそう呼ばれ、彼女は荒く口を開いた。そしてまた鋭く剣を打ち込む。
重く素早い一撃だった。良い剣だと思う。あの頃よりも、更に技量が洗練されていた。

それを何度か受け流した後、俺は間合いを詰め、彼女の肩を剣の腹で打った。
衝撃に、剣の柄は彼女の手を離れて地面に落ちる。


「すまん」


そう呟き、彼女の腹を強く拳で打った。
くたりと力を無くした体を抱え、俺は撤退を始めた海軍に背を向けて船に向かった。





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