buon viaggio

□I'll be with you
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「あー……で、お前が悩んでた事って何」



短い間とはいえ居心地悪くてお互いに無言でいたが、その静寂が耐えられなくて俺から口を開く。

そうすればキーリは挙動不審に視線を彷徨わせたあともごもごと話し始めた。


「……えと、あの、その」


だが、漸く口を開いたかと思えばそこで一端声を途切れさせたキーリ。

何が言いづらいのか知らないがその様子に逆に落ち着かなくなる。

もしかしたらよっぽどの事なのだろうか……

今は消えた幽霊少女のさっきの言葉からしてもそう簡単な事じゃないような気がして、だけど俺のせいだと言われてもいまいちピンと来ないすっきりしないこの現状に苛立ちは増すばかり。


ったく

あの時兵長がもったいぶらずに言ってくれてれば多少はマシだったかもしれないってのに

助言どころか衝撃波をお見舞いしてくるとか普通あり得ない

おまけにキーリの傍にいながら電源切られて役立たずになってるし

明らかに衝撃波を使うところが間違ってるだろ

俺じゃなくてさっきみたいなキーリが危ない時に使ってくれ



「ハーヴェイは」

「……」


胸中でうんざりして愚痴をこぼしていると、キーリがぎゅっと目を瞑って微かに震える声を再び響かせた。

それに意識を戻され伝染した様に少しの緊張感と共に俺はその先を待つ。

意を決した表情でキーリの口からこぼれ落ちた言葉は




















「ハーヴェイは私がいない方が……いい?」




















「―――は?」



















「私がいると迷惑……だよ、ね」





そんな予想外の今更なもので

それを聞いた途端時間が止まった様な錯覚を覚えた。

俺の口から漏れたのは酷く間抜けな声だったと思う。

おまけに顔も声と同様になっているのだろう。

幸いにしてキーリが俯いているお陰で俺のそんなアホっぽい表情を彼女に見られずに済んだのだが。


……

てか、こいつは今何つった?

キーリがいて迷惑じゃないかだって?

なんで今更になってこいつはそんな事を言い出すんだ

またいつもの発作的なものなのか?


そもそも俺がいつ迷惑だなんて言ったんだ


とはいえ


まあキーリに出会った事で色々な事が起きたのは確かだ

キーリに会ったばかりの頃はキーリに纏わり付いていたあの金髪の幽霊少女のせいで列車に轢かれるし

悪霊に取り憑かれたキーリのお陰で砂の海に落ちて遭難仕掛けるし

ああ、そういやその後串刺しにもなったんだっけか

思い出してみると結構悲惨な目に遭ってたんだな俺……


でも


別にそれらは“キーリの”せいじゃない

別にキーリに対して迷惑だと思った事も一度もない


というか


キーリが悩んでた事って“そんな事”だったってのか?



「だ、だって、この間の汽車の中で答えにくそうだったし……私のせいでハーヴェイいつも怪我して厄介事に巻き込まれて今だって」


言われた言葉にぽかんとして声を発さない俺に不安になったのか、ぽそぽそと視線を下げてそう言い足し始めるキーリ。

それにぴくりと俺は片眉を上げた。



そういや兵長にも汽車の中の言葉が何とかって言われたっけ

もっとキーリの事を考えてやれとか脈絡の良くわからない事と一緒に



汽車の中


汽車の中……


汽車の中―――?












“おにーさんもキーリと一緒にいたいの?”


“……別に、お前に答えてやる義理はない”


……

まさかあの時のことか?

別にあれには深い意味なんてなかったしそれこそ言葉通り、なんで会ったばかりの、しかもキーリにべったりしてる幽霊のガキにそんな事言わなきゃなんないんだと思ってそう答えただけだ

勝手に勘違いしてるのか知らないが答えにくかったわけじゃなくて、単に面倒臭くてキーリの隣に陣取るそいつに苛立ってただけでそれに答えるのが気恥ずかしかっただけで……て、待て何言ってんだ俺


「……はぁー」


漸く原因に思い合った俺は若干の脱力感と共に溜め息を吐いた。

兵長やあの少女の霊に中途半端に言われた言葉に対しての燻っていた不愉快な疑問を、肺の中の空気と一緒に吐き出すように。

天を仰ぐように砂色の空を見上げて。


「お前の方こそ俺といて嫌じゃないの」


暫く空を見てからゆっくりと視線を戻していつもの口調でキーリにそう問いかける。

そうすればぱっとキーリが勢いよく顔を上げた。

そしてその口を開いて必死にも見える顔で何かを言おうとしたけれど



「あー、違うな」


キーリが何かを発する前に俺からその言葉を遮る。

“質問を質問で返すとか意味が分からない”と、この間の兵長に対して思ったことを自分でしている事に気がついたから。


だから


多少の気恥ずかしさはあったけれど、不安げに見詰めてくるキーリに


「俺言っただろ。“一緒に来てくれる、キーリ”って」


そう言った。


「あの時の言葉は今も変わってないし、“うん”って言ったお前の返事を今更撤回させる気もないんだけど」


言った後にらしくない台詞にむず痒くなってキーリから視線を一瞬だけ外す。

けれど、すぐにまたその黒い瞳を見詰め返した。
















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