buon viaggio

□I was just frightened
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高い所で1羽の鳥が弧を描いて飛んでいる


それを真下から見上げている私


でもどうして真下から見上げているのだろう


ああそうか


私が落ちているからだ




そう




落ちて




いる、から?




















「なっ!!」














自分の置かれている状況を良く理解出来ないまま、ただ反射的に目を見開いて空を見上げていたら視界の隅に写った赤銅色と微かに聞こえた絶句の声。

見開いた目そのままにそちらへと視線を移せば、言いようのない切羽詰まったような恐怖すら伺えるような必死な顔が見えて


「ハー……ヴェイ?」


上手く声の出ない咽でただ一言その名を呼んだ。

それと共に自然に自分の手が伸びて。

空を掴むように腕を持ち上げて。

それは砂色へではなく大好きな、他の何よりも大切な赤銅色に向けてのもの。


けれど


その赤色ですらどんどんと小さくなって離れていく


何故か急にもう手の届かない場所にいってしまう喪失感に煽られ


その手に触れられない寂しさに急に襲われて


言いようの無い切なさにも似た恐怖感に支配されて


ずきんと胸が苦しくなる








この場になって初めて分かった


迷惑だと分かっていても


人より霊感のある単なる人間(わたし)はお荷物でしかないと知っていても


自分本位の我が儘でしかないと気づいても


それでも


それでも私は


私は
















「っ、キーリ!!!」

















下へ下へと引き寄せられる体。

かき乱される様に髪が散りそのうちの一束が口に入ってざらざらと舌の上に覚える不快感。

そしてびゅうびゅうと耳元で鳴く風の音。


その中で一際大きく強くキーリの鼓膜を奮わせたのは力強い低音で


それと同時に見上げた空の上から降り注がれていた筈の日の光が遮られ

黒髪の少女に重なる様に落とされた影が

赤銅色が

徐々に徐々にキーリに近づいていく



「―――っ」



伸ばされたままだった手に触れた温もり。

未だ体は宙に浮いたままだというのに何処か安堵したかの様な間近かに写るハーヴェイの顔。

次の瞬間にはふわりとキーリの体は自分よりもがっしりとした胸の中に包み込まれていた。

慣れ親しんだ煙草の香りが肺を満たす。

そして少女を守る様に優しく、けれどしっかりと抱き込んだハーヴェイの体はいつの間にかキーリより下にあった。

キーリの顔を胸に押しつけるようにして、一本しかない腕でキーリをしっかりと抱き留めて


「目、瞑ってろ。キーリ」

「―――」


ぼそりと囁くような、けれど心地よい声が耳に届くと同時にキーリは思う。

そして泣きたくなる。















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