三國無双

□実
3ページ/6ページ


陸遜は、周瑜の裳に、愛馬のものらしき色の毛を見つけて、口を開いた。

「今年の花は、如何でしょうか?」


「ああ、何の事だ」

――またか。



静かに葉が揺れる、余りに穏やかな午なのだ。他に何を望むことが在るのか。
今此処で手折り、其の肉と骨を食して、我が物としたい、とでも考えて居るのか。

否、と強く答えられぬ自分が、醜く、そして苦しい。
あの幼い破壊衝動は、何時迄も、我が内に生きていたのだ。
君を想って居たいと、願う程に。




「また、桜の様子を見ていらっしゃったのでしょう」

「……君には叶わないな」

「皆知って居ります」

本当に甘いのだから、そう陸遜はこぼし乍ら、苦笑する。






嗚呼!

未だ、花は!






最早私には、咲く力は疎か散る力も、恐らく残されてはいまい。
一方君は、また遠くへ往くのだろう。焦燥に駆られるのでは無く、只往くべきして往く。

私は、そんな君が、酷く、嫉ましいのかも知れなかった。

しかし、季節は、まるで私とは関係の無いところで、淡色の、甘やかな日々をまた、運ぼうとして居る。あの桜曇を、蒼い蜜の味覚を。
他に、何を望めようか。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ