三國無双
□実
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陸遜は、周瑜の裳に、愛馬のものらしき色の毛を見つけて、口を開いた。
「今年の花は、如何でしょうか?」
「ああ、何の事だ」
――またか。
静かに葉が揺れる、余りに穏やかな午なのだ。他に何を望むことが在るのか。
今此処で手折り、其の肉と骨を食して、我が物としたい、とでも考えて居るのか。
否、と強く答えられぬ自分が、醜く、そして苦しい。
あの幼い破壊衝動は、何時迄も、我が内に生きていたのだ。
君を想って居たいと、願う程に。
「また、桜の様子を見ていらっしゃったのでしょう」
「……君には叶わないな」
「皆知って居ります」
本当に甘いのだから、そう陸遜はこぼし乍ら、苦笑する。
嗚呼!
未だ、花は!
最早私には、咲く力は疎か散る力も、恐らく残されてはいまい。
一方君は、また遠くへ往くのだろう。焦燥に駆られるのでは無く、只往くべきして往く。
私は、そんな君が、酷く、嫉ましいのかも知れなかった。
しかし、季節は、まるで私とは関係の無いところで、淡色の、甘やかな日々をまた、運ぼうとして居る。あの桜曇を、蒼い蜜の味覚を。
他に、何を望めようか。
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