三國無双

□実
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「公瑾様」

厩舎より戻り、庭を行く周瑜を、呼び止める声が響いた。灌木の傍らで振り返ると、階を降り、此方へ向かう陸遜の姿があった。

此の時頃は、甘やかに曇った日が多い。
雲は夜半には軟質の雨に成り、新芽の成長を促していたので、彼が一歩緩やかな土を踏む度、春の気もまた波紋と成り、其の足元を彩って居る。


薫る緑水を、まとうことの出来る彼が、眩しく感ぜられて、周瑜は僅かばかり目を細めた。

暫く見ぬうちに身長が伸び、より精悍な目つきとなった陸遜は、胸の前で拱手して、上官へ帰還報告をする。
周瑜は満足気に微笑した。

「君の噂は此方にも届いて居る。賊徒の討伐、御苦労だった」

「有難きお言葉に御座居ます」

其れでも、未だ残るあどけなさは、矢張り生来のものであろうか。

陸遜は目許をやわらげて、頭を垂れる。


其の細い栗色の頭髪が、残像を描くのと殆ど同時に、全身の血液が、一斉に牙をむき、逆流し、沸騰する、




「公瑾様」




様に、思われた。



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