三國無双

□後眩惑
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夜更けの室内は、ぽつりぽつりと灯された燭の炎で、まるで水底に居る様な錯覚をおぼえる。
その一画に湯のはった盥と、其れに半身を浸す陸遜があった。

夜半のごく細い炎によって、端正な面に現れる疲労が一層色濃く映る。
実際、彼は非常に疲れているのだった。
疲弊するに充分過ぎる程の出来事が、この一、二刻の間に一挙に襲い来たのである。
そもそもの根源である(少なくとも彼にとっては)部屋の主の姿は、此処には無い。
何故なら、陸遜が無理矢理体をおして、軍医の室迄送り出した為であった。

道の分からぬ童ではないのだからと苦笑する周瑜に、何か辛辣な言葉を吐いた気がするが、善く憶えていない。


陸遜は、私の室に湯を用意させたから使うように、という周瑜の言葉のみに従い、重い体を半ば引きずる様にして居室に戻ったのである。


脱衣した後、暫し思考停止に近い状態で盥に蹲っていたが、漸く彼は自らと折り合いを付けた様だ。

先ず何よりも、早く眠りたかった。
作業に集中していれば、余計な思考は不要である筈だ。



あの方のことは、後だ。


明日、
明るくなってからで良い。




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