遺跡内という例外こそあるが、この島にも冬は訪れる。
 冬となると、当然環境の変化によって結構極端に多種多様な利益や弊害が生じる。
 その対象は人だったり、自然だったりともちろん様々なものだ。
 初雪、初霜、柚子……と列挙してみれば数が出てくるが、今回は今挙げたもののどれにも属さない。
 気温によって生ずる、血行が悪くなって主に手足や指先に生じやすい炎症を起こす冬の季節病。じんじんと痛み地味に辛い。
 とどのつまりが霜焼けのことである。
「参ったなあ……そういえば今日は何の対処もしてないんだった」
 まだ大丈夫だと思ってたのにな、と忌々しげにも聞こえる言い方で呟き、適当にその辺に落ちていた枝を拾い集める。
 両手とは言わずとも抱えるほど大きなものから片手で何十本も持てるような小さなものを持ち、少し歩いた先にある開けた場所で重ねる。
 手は鈍痛こそ走っているがほぼ感覚が麻痺しているので、枝を持つのに特段考慮する必要もない。
 余ったものは横に散らし、適当に落ち葉を撒いたところから焚き火でもするのだろうか。
 あとは枝葉に火を点けるだけという段階で、燈茉は不意に手を止めた。
「(通行人か、招かれざる客か。 今は遺跡外だし、こちらから声をかけても問題ないかな?)」
 不意に現れた気配に一瞬視線を巡らせ―――その間だけ凶悪な殺気に似たモノが放出された―――暫し考えるような間が開いた。
 彼女は一息ついた後、場所は分かっているというのに、どこに言うでもなく少し声を張り上げるに止めた。
「お姫様か、王子様か……そこに居るのは誰だい?」
 ほどなくして、燈茉の近くの茂みがやや遠慮がちに動いた。

 時間は少し返り、且つ現在地から少し離れた地点。
 時期的には少し気の早い雪で薄く地面が白く染まる遺跡外を、ローズマリー・ゴールドが歩いていた。
 雪が降るだけあって、肌寒さから思わず目が覚めてしまい気晴らしに散歩をしていたのだ。
「夜更かしはお肌の敵って言うけど、こればっかりは仕方ない、ワネ?」
 誰にともなく言い訳のように呟きながら歩く彼女には、当然のことながら目的地など存在しない。
 足の向くままに歩を進め、それでもちゃんと元の場所に戻れるように無意識の内に道順だけは記憶していく。
 そんな感じでゆっくりと進んでいたので、実際どれくらいの距離を歩いたのかは分からない。
 数分林を流離っていたところ、遠目に少し開けたところが見えた。
「アラ……?」
 そこでは20代後半ほどの腰まである血色の長い髪を携えた青年が、落ち葉や枝を重ねて所謂「たき火」を実行しようとしていた。
「ちょうどいいワネ。入れてもらおうカシラ★」
 彼の動きが一瞬止まったのには気付いたが、そこは気にせず。
 期せずしてその人物が彼女に声をかけるのとほぼ同じ頃、ローズマリーは茂みから出る気満々だった。
 というか、彼女は最初から隠れてすらいないのだが。

「ん……? お嬢さんの方だったのか」
「(なかなかのイイオトコじゃない★)」

 一応、お互い第一印象は悪くはないようだ。
 何気なく2人共互いの性別を間違えているが、それは気にしないでおこう。
「ねえ、たき火するんでショ? だったら入れてくれないカシラ」
「コレのことかい? もちろん構わないよ」
 燈茉が足元にある今から火をつけるものを指差すと、嬉しそうに首肯が返ってきた。
 対する燈茉はにっこりと笑顔で応対。こういった挙動が誤解を招いているのだが彼女に自覚はない。
 見た感じ燈茉はマッチ等の火種になりそうな類のものを持っていないので、どうやって火を点けるのかローズマリーは興味津々のようだ。
 その視線に気付いたのか気付かなかったのか、恐らく後者だろうが、彼女は剣印を作ると静かに枝葉の連なりをそれで指した。
 と同時に、指されたところから勢いよくとまではいかなくとも炎が上がる。
「剣印を作らなければいけないのは難点だな……」
 普通の人間の手よりも幾分か紅みが強い手を軽く振ると、鈍痛が走ったらしく表情を歪めた。
 その一連の挙動に不思議そうに炎を見ていたローズマリーが振り返り、徐に彼女の手へと目を落とす。
 燈茉の手は、今は素直にたき火に向けられていた。
「アラ、霜焼けカシラお兄さん?」
「ちょっと、生まれつき凍傷の類になりやすい体質らしくてね。血行が悪いというかなんというか」
 遺伝性とかいうものらしいよ、と続け、目を細めてたき火を見た。
「まあこういった火に手を突っ込むと向こう1日くらいは楽になるから、私のものもまだ軽い方なのかな」
 さり気なく問題発言をしたのを、ローズマリーは聞き逃さなかった。
 問題発言というか、普通の会話をしていると先ず聞こえてこないであろう言葉だ。
「火の中に手を突っ込むって……嘘ヨネ?」
 対する燈茉は、今の自分の発言をまったく疑問に感じていない様子だ。
「いや、本当だよ? ホラこうやって」
 言うと、燈茉が火の中に手を手首の辺りまで突っ込んだ。
 横で引くような声が上がったところから、横に居た彼女はモロに見てしまったようだ。
 頭上に疑問符でも浮かんでいそうな感じで燈茉が隣の様子を横目で伺うと、ぎょっとした、という単語が似合いそうな表情が見えた。
 何だかローズマリーの血の気が引く音が聞こえてきそうだ。
「………正気、よ、ネ?」
「へ? 何か変なことしてるかい私?」
 熱くはないのかとかそもそも火に手を入れて大丈夫なのかとか疑問が次々と彼女の頭の中を巡ったが、本人に自覚がないので聞きにくい。
 結局聞いたことは、当たり障りのなさそうなものだった。
「…………熱くないの? 本当に?」
 不思議そうに首肯が返ってくるところから、凍傷になりやすい代わりに火に強いのだろうか。
「火属性は元々持ってるから湯冷めしないお湯みたいなものと感覚は同じさ」
 さも当然のように言われてもこちらはサッパリだ。
 言い方が相手への配慮というものを一切考えていない風なので、言いたいことが正しく伝わっていない典型だろう。
 結局数十秒後には手を抜いたのだが、衝撃からかあまり会話は弾まなかったとか。

 ローズマリーと別れた後、燈茉はたき火の始末をして同行者の元に戻ってきた。
「あ、お帰りなさいお嬢。何かありましたか?」
 いつも通りに出迎える捷に、正確には彼の発言に難色を示す。
 疑問の視線に気付き、考えるような間を置いた後に気まずそうに人差し指で頬を掻きながら答える。
「何と言うか……人には会ったんだが、その場で霜焼けを治していたら何故かさざなみのように引かれてしまったよ」
「……もしかして貴女、前と同じような治し方してました?」
「当然だろう? 私はそれ以外に治し方知らないし」
 でもお陰で楽になったよーと嬉しそうに言う燈茉そっちのけで、捷は顔も知らない彼女が会った人のことを思って心の中で言った。
 こんな人の相手をしてくれてありがとう。そしてこんなのでごめんなさい、と。


 オマケ。

 報告書兼日記。 霜月17日 瑠辺 燈茉
 久し振りに霜焼けになった。
 こうして発症するのは何年振りだろうか。少なくとも此処100年は無かったような気がする。
 何時も通りの応急処置をやっていたら、ローズマリーという方に出会った。
 彼女……か? 何となく違う気もしたが……まあ女性としておこう。
 兎に角彼女にその応急処置の場面を成り行き上見せたところ、何故か思い切り引かれてしまった。
 捷曰く、「それが普通の反応」らしい。世間一般における「普通」の定義が分からない。
 一応コレは代々伝わる治し方だと聞いたのだが……もしや嘘だったのだろうか。ということは騙されたのか。
 小さい頃に聞いたことなので今更ながら一寸ショックだ。以上。



 -Special Thanks-

 コミュニティ「文章が好きなんです、下手だけど」企画「冬の夜長に文章を読もう」
 タイトル「霜焼け」
 お借りした人物
 Eno.1958 ローズマリー・ゴールド様


 

[TOPへ]
[カスタマイズ]



コレカラ進路特集に
EXILEプロデューサー登場!


[無料HP作成]

(C)フォレストページ